Vol.1 春口農園

小玉スイカを栽培している春口親子

ひたすら真面目に、家族で育てた
小玉スイカ「肥後てまり」。
美味しさが増す初夏におすすめです。

ハウス内に広がる初夏の光景

2月中旬の熊本市東区の戸島本町。住宅が立ち並ぶ一帯から少し車を走らせると視界が開け、さまざまな農作物が栽培されている畑が見えてきます。その中に、春口豊徳さんと貴範さん親子が小玉スイカを育てている畑がありました。100m以上はある長くて大きなビニールハウスが何棟も並んでいます。

ダウンジャケットを着ていても肌寒い時季です。しかし、ハウスの中は初夏のよう。暖かい空気に包まれ、緑の葉が茂る中、くっきりと黒の縞模様が浮かぶ出荷直前の小玉スイカがあちこちに実っています。

春口さんは、ビニールを二重にすることで、ボイラーを焚かずにハウス内の温度を高めています。今年のように寒さが厳しい年はさらに二重重ねて四重にして、小玉スイカの生育に適した環境を作り出しているのです。

熊本県のスイカの生産量は全国一。加えて他県に先駆け、2月には早くも出荷がスタートし、5月上旬には最盛期を迎えます。県内の主な産地は植木町や鹿本町。そのような中、春口さんたちの畑がある熊本市の戸島町や小山町周辺で栽培されたスイカは、糖度の高さで知られるようになりました。

小玉スイカを育てるビニールハウス ビニールハウスを見回る春口さん

“わさもん”が追求する小玉スイカの味

春口さんが、20年ほど前から栽培しているのは1玉が2kgほどの小玉スイカ。丸い玉のまま冷蔵庫にも入る、近年主流のサイズです。

その小玉スイカ栽培の先駆者的存在なのが、豊徳さん。「“わさもん(新しいもの好き)”だけん、熊本で最初に小玉スイカの栽培に挑戦したんですよ。失敗もありましたが、それは技術が未熟だったからでしょうね。でも、できないからといって諦めることはしませんよ」と笑います。

その言葉通り、他の農家に先駆けて新品種の試作に取り組み、美味しさを追求してきました。今も、育てているのは新しくて珍しい“スウィートキッズ”という品種です。シャリ感があり、薄い果皮のギリギリまで甘いのが特徴です。「でも、スイカの美味しさは品種で決まるわけでもないんです。大切なのは栽培方法。私たちは、口にした時のシャリ感と糖度とのバランスがとれているスイカこそ美味しく食べていただけると考え、そこに近づけるための試行錯誤を繰り返しています」

小玉スイカの赤ちゃん スイカの受粉作業

手作業で、手間を惜しまないこと

今年は立春寒波の到来で、例年にない寒さが続いていた2月1日。早くも小玉スイカのセリが始まりました。

春口さんは、購入した種を蒔いて育てた苗を畑に定植しています。畑の合計面積は1町2反(1.2ヘクタール)。植える苗は1万本にもなります。ハウスごとに定植する時期をずらすことで長期にわたって出荷を続ける工夫をしているため、それぞれの生育段階に合わせた異なる管理が必要です。

定植して1カ月ほど経つと6本ほど伸びた芽を4本にし、温度が一番高くなる畝の中央に揃えて曲げていきます。同じ過程を再度行い、花が咲いたら雄しべを摘み、腰を曲げて一つずつ雌しべにつけて交配します。午後になると花に蜜が浮いてくるので、交配できるのは午前中に限られているのだそうです。

その後、花の下の部分がプクッと小さく膨らむと、赤ちゃんスイカの誕生です。しかし、美味しいスイカに育てるため、1本の苗に実らせるのは2玉のみ。そのため、他の赤ちゃんは摘んでしまわなくてはなりません。残した赤ちゃんは、積算温度が1000度を超えるまで約43日間、ハウスの中で大切に育てられます。

春口さんたちは、これら一連の作業を全て手作業で、家族4人で行っています。大変な時間と手間が掛かりますが、「私たちは、赤ちゃんを育てて出荷するまで、1玉に11回触れているんですよ」と豊徳さんは誇らしげです。

大事に育てられた小玉スイカ

日々の経験と努力の積み重ねから生まれる自信

広い広いビニールハウス。栽培中は常に、ハウス内を小玉スイカの生育に適した温度に保つ必要があります。最近はコンピューター制御でビニールを開閉するシステムもありますが、貴範さんは、「風が抜けていく感じなど、ハウスは1棟ごとにクセがあります。ですから温度調節や換気のタイミングは、長年の経験をもとに決めます。これらの経験が技術の差となって小玉スイカの味に現れると思っています」と胸を張ります。その佇まいは職人のよう。毎日全てのハウスを回り、苗の状態を観察する努力の積み重ねがあって生まれる自信に満ちあふれています。「品質の維持が第一。家族4人の目が行き届く範囲で、決して手を抜かず、真面目に取り組んでいくだけです」

収穫は、葉やツル先の状態を見て決めます。「丸ごと出荷するわけですから、私たちは、外見を見ただけで美味しいかどうかが分からないといけない」と貴範さんはきっぱり。加えて、「表面にツヤがあって真ん丸な形。緑と黒のコントラストがはっきりしていて、なるべく鮮度の高いもの」と、私たちが選ぶ際の目安を教えてくれました。

収穫した小玉スイカ 小玉スイカの収穫選定

土作りにひと手間掛けるこだわり

7月中旬まで続く収穫が終わると、次は土作りです。ビニールを剥いで堆肥を入れ、2カ月ほど土に雨を打たせて土壌をリセット。春口さん親子は、小玉スイカの栽培期間中、畑に一切水をまきません。「以前は川から水を汲んで畑にまいていましたが、スイカは砂漠育ちでしょう?水分を与えない方が美味しくなると気付いたんです」と豊徳さん。しかし、それは大変な手間の掛かる作業を行うからこそ可能になること。実は、春口さんたちは定植前の土中に空気を送り込み、根が土の中に細かく分け入っていけるようにしているのです。「ひと手間掛かるし専用の機械が必要なので、他の農家さんはあまりしていないこと。でも、美味しくなるんですよ!」

美味しそうな小玉スイカ

子どもが夢中になる「肥後てまり」

春口さん親子が1シーズンに出荷する小玉スイカの数は2万〜2万5000玉。栽培方法を同じくする2軒の農家と提携し、「肥後てまり」のブランド名で出荷しています。化粧箱は、20年ほど前に豊徳さんが考え、デザインしたものです。「子どもが遊ぶことも忘れてスイカに夢中になっているイメージ」と楽しそうです。

ハウスを後にしたところで、「肥後てまり」を試食させていただくことに。サクッと割った断面は初々しい赤い色。周囲にスイカならではの甘くて爽やかな香りが広がります。ガブッとかじると、シャリシャリの食感と同時に、口中が甘い果汁で満たされ、一層美味しく味わえるだろう初夏が待ち遠しく感じられてきました。

「肥後てまり」をさらに美味しく食べる方法を尋ねると、貴範さんは「一番のおすすめは、買ったら少しでも早く、常温で食べてもらうこと。あまり冷やしすぎず、食べる30分から1時間ほど前に冷蔵庫で冷やすのも美味しいかな」

春口さん親子が育てた小玉スイカ「肥後てまり」は、3月下旬に店頭に並ぶ予定です。平成28年熊本地震が発生したのは、小玉スイカの収穫が真っ盛りだった時期。土が地割れし、沈下したハウスもありました。大きな被害ではなかったとのことですが、今年は地震以降、初めての鶴屋への出荷です。

「10項目の残留農薬の検査をクリアした小玉スイカです。安心して食べてください。美味しさにかけては、他にそうは負けちゃおらんと思います」と満面の笑みの豊徳さん。貴範さんは「家族4人で一生懸命作っているので、美味しく食べて欲しいです。特に、4〜5月頃の小玉スイカは、間違いなく美味しいです!」

鮮度の高い小玉スイカ 小玉スイカ「肥後てまり」の化粧箱

文=谷端加代子/写真=野中元

Information

画像:春口農園

春口農園

春口豊徳さんの父親はあか牛の肥育農家。豊徳さんは高校を卒業してすぐに後を継ぎ、ビニールハウスで栽培するスイカ農家に。20年ほど前から小玉スイカの栽培に取り組んでいます。息子の貴範さんは、経済を学んでいた大学時代に後継ぎになることを決意。現在、それぞれの妻と家族4人で、小玉スイカ「肥後てまり」を育てています。

画像:肥後てまり(小玉スイカ)

肥後てまり(小玉スイカ)

シャリ感と糖度のバランスがもたらす初夏の味覚を、一足早く味わえます。「今年の出来はいいと思います」と、春口さん親子自慢の小玉スイカ「肥後てまり」です。

■5,400円(税込)〈直径約20cm×2玉、化粧箱入〉
※配送料(常温便)が別途かかります。

今シーズンの承りは終了いたしました

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