Vol.1 福田酒造

一期一会の味を。人吉球磨の自然環境に鍛えられ、20年のときを経て目覚めた樽熟成酒

鶴屋では、お歳暮ギフト「くまもとの県産酒」として、人吉球磨の焼酎蔵『福田酒造』が手掛けた熟成リキュール「No.261」を販売します(60本限定)。2002年8月から20年以上にわたってオーク樽で貯蔵したプレミアムな焼酎(酒類はリキュール)とは一体どんなものか?人吉市にある蔵元を訪れてみました。

昭和10年創業。少数精鋭で味を受け継ぐ

JR人吉駅から車を走らせること約5分。県道188号沿いにナマコ壁が美しい建物が見えてきました。出迎えていただいたのは、『福田酒造』5代目の福田寿一さんと、3代目杜氏の宮ア正幸さん。『福田酒造』は、天草郡苓北町出身の初代・福田國彦さんが人吉市内へと移住したのち焼酎醸造所を買い取り、88年前の1935(昭和10)年に創業。創業当初は鹿児島から杜氏を呼び寄せて焼酎を醸造していましたが、現在は杜氏を社員として雇い入れ、少数精鋭でその製法を受け継いでいます。

酒蔵らしい白壁が街並みに映える『福田酒造』の外観

「効率よりも品質を」との教えを受け継ぎ、華やかで美しい酒質の焼酎を目指している5代目・福田寿一さん

掃除を徹底。清潔な環境を第一に

さっそく蔵の中を案内してもらいました。

中に入ると、ふんわりと甘い香りが鼻腔をくすぐります。創業時から建て増しを繰り返してきたという蔵は、歴史を感じつつ、床や道具はピカピカ。「焼酎造りで最も大切なのは、清潔な環境を保つこと。麹や酵母はデリケートな生きものですから、常に最適な環境で育ってくれるよう、作業が終わったら道具はもちろん、蔵の隅々までしっかりと磨き上げます」と、杜氏の宮アさん。

昭和10年の創業当時から建て増ししながら使い続けている蔵。 昭和の雰囲気を残す風情ながら、機械や床はしっかりと磨き上げられて新品のよう。

仕込みの時期は1月後半から3月にかけて。生産量が多いときには4月にまで及びます。作業に携わるのは、わずか3人。限られた人数でも安定した酒質と収量を確保できるのは、昭和39年に自動麹装置を導入して以降、昭和57年には工場を大改造して設備を一新するなどの改革を行ってきたからこそ。

麹造りを機械化して麹の均質化や糖化力の強化をはかってきた一方、どれくらいの量の酒米を仕込み、一次仕込みでは何時間寝かせるか。また温度や湿度をどう見極めるか、といった一つひとつの工程においては、造り手が長年培って得た経験と勘が欠かせません。「もの言わぬ麹や酵母の様子を、五感をフルに働かせて見守ることが重要です。そこが焼酎造りの難しいところでもあります」と語る、5代目の福田さん。

一次仕込み用の製麹(せいきく)装置。蒸して一晩寝かせた酒米に麹菌をつけて麹を根付かせ、もう一晩。湿度と温度を一定に保ちながら約36時間かけてじっくり麹菌を増やします。47年前の昭和51年製ながらメンテナンスを行うことで、現在も活躍中。

一次仕込みに用いる冷却器。もろみは発酵する過程で熱を出し、進み過ぎると麹菌や酵母が死んでしまうため、それを制御するために水、麹、酵母を混ぜた中に直接沈めて冷やし、適切な温度に調整します。

原酒が眠る貯蔵タンク。新たに仕込んだ原酒を継ぎ足すことで、味わいや酒質の均一化を図ります。

自然にゆだねて樽で熟成させる

続いては、樽の貯蔵庫へ。樽が縦横にずらりと並ぶ様子は圧巻です。一つひとつにシリアルナンバーと焼酎を詰めた年月日が刻印され、今回ご紹介する「No.261」を見つけることができました。

2002年8月30日に詰めた球磨焼酎を20年以上かけて樽でじっくり熟成させた「No.261」。樽から取れるのはボトル700本分ほど。

ちなみに取材したのは8月末ということもあり、貯蔵庫の中は汗が吹き出すほどの暑さです。「うちは特に室温設定はしていません。人吉球磨は冬と夏の温度差が大きく、冬はマイナス5℃とか夏は40℃近くになることも。厳しい環境といえますが、水や肥料を与えないことで甘さや栄養が凝縮する自然栽培の野菜と同じように、自然に任せることで焼酎たちは鍛えられ、独特の味わいが生まれます」(福田さん)

24時間徹底した温度管理を行う蔵元もある中、それとは対照的にワイルドに育った焼酎とは一体、どんな味なのでしょう? さっそく試飲させてもらいました。

試飲、おすすめの飲み方

ワイングラスに注がれた、琥珀色の液体。グラスを回すと、甘い熟成香が広がります。まずはストレートのまま、一口。芳醇な香りとともにフルーティーな味わいが口いっぱいに行きわたり、柔らかな口当たり。知らずに飲めば高級ブランデーや貴腐ワインのようです。原料が米だけとは思えない味わいの広がり方に、ただただ驚くばかり。

「うちの米焼酎は樽に入れる前からフルーティーですが、真新しい樽で球磨焼酎を純粋に熟成することで、さらい味わい深くなります」。

「この味はもう、人工的には出せない味。自然の恩恵によるものです。世界に出しても絶対負けない自信があります」と、福田さんの言葉に力が入ります。

おすすめの飲み方は、ストレートかロック。お酒を飲み慣れていない方であれば、炭酸水で割ってハイボールにしても、豊かな香りを楽しんでいただけます。食べ物とのマリアージュにはチョコレートやスモークチーズ、スモークサーモンなどがおすすめだそう。あるいはバニラアイスクリームやレモンシャーベット、コーヒーに少し垂らしてみると、ぐっと大人の味わいに。

琥珀色が美しい「No.261」。グラスを回して空気含ませながら飲むと、「No.261」本来の味わいをダイレクトに感じることができます。

ちなみに、製法としては国産米を原料に人吉球磨の地下水で仕込んだ、正真正銘の球磨焼酎ではあるものの、液色が茶褐色であることから、酒税法の規制上「リキュール」に分類されています。

樽仕込みの焼酎はアメリカなどではライスウイスキーと呼ばれて人気が高く、この「No.261」も、もし海外で販売すれば高級酒に位置付けられるクオリティーです。しかし「地元の方にこそ球磨焼酎のポテンシャルの高さを味わってもらいたい」と、鶴屋お歳暮の特別ギフトとして限定販売できる運びとなりました。

原料はあくまでも「米」。この地域でしか表現できない味を目指して

福田さんが代表取締役として5 代目に就任したのは、株式会社に組織変更した2014年のこと。以降、新たな取り組みに挑戦してきました。その一つが、蔵で眠っていた熟成焼酎をストレートのまま商品化したこと。それまでは人気ブランド「樽神輿(たるみこし)」をはじめとするいずれの焼酎も、貯蔵年数の異なる焼酎をブレンドした物でした。

「うちにはお客様から感想や要望の声が届きます。そんな中、長年眠っている焼酎をブレンドせずに飲んでみたいとの声があって。ですから樽のシリアルナンバーを入れて、シンプルに出してみたんです」(福田さん)。瓶詰めのまま置いても熟成していくそうなので、我が子の誕生日に買い求めて20年後に飲むこともできますし、自分の長寿祝いのために保管しておくのも将来の楽しみとなりそうです。

「No.261」とほかの商品を飲み比べてみると、香りや味わいのインパクトは段違い。「まさに偶然の産物。意識的に作れる味ではありません」と福田さん

世界的に日本の国産ウイスキー人気が高まるなか、蔵元によっては国産ウイスキーづくりへ鞍替えする動きもあると言いますが、『福田酒造』では、あくまで「米」を原料とする球磨焼酎にこだわっていきたいと語る福田さん。「日本人の口にはやっぱり米が合いますし、米の方が日本らしい。海外では日本のダシが受け入れられているように、米焼酎独特の甘い香りや余韻が感動を与える気がしています。ですから、うちではあくまでも球磨焼酎。この地域でしかできない味を目指します」。娘さんが大学卒業後には後を継ぐことを見据えて入社予定とのことで、福田さんの表情に思わず笑みが浮かびます。

今後も樽熟成に力を入れていく予定。シェリー樽やフランスのワイン樽など新たな樽も仕入れているそうで、これから樽で眠りに入る焼酎が将来、どんな味に仕上がるかは誰にも分かりません。まずは20年前の味わいを楽しみながら、将来完成するであろう一期一会の味を待ちたいものです。

Information

【福田酒造】No.261

昔ながらの酵母と製法で仕込んだ球磨焼酎をオーク樽で20年以上熟成。樽のシリアルナンバー「No.261」をそのままネーミングにしました。一年の寒暖差が30度以上という厳しい環境を耐え抜いたその味は、樽熟成の甘美な香りと濃厚な風味、ふくよかな余韻が広がり続ける、印象深い味わいが特長です。

■ 19,800円(税込)
■ リキュール42度、500ml

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