Vol.2 高田酒造場

父と娘の夢が花開く。百年の焼酎造りを次の百年に。

創業から120年。熊本県南・あさぎり町の小さな蔵元

日本三大急流の一つである球磨川が東西を走り、宮崎県と県境の山々に囲まれた盆地に位置する球磨郡あさぎり町。昼夜の寒暖差や良質な水によって豊かな農産物が育まれ、米を原料とする球磨焼酎の代表産地となっています。そんな町で昔ながらの製法を受け継ぎ、少量生産によるこだわりの焼酎造りに取り組んでいるのが、100余年の小さな蔵元『高田酒造場』です。

鶴屋では、2022年お歳暮ギフトとして『高田酒造場』の代表銘柄の一つである米焼酎『山ほたる』の鶴屋限定品を販売。その商品が製造される現場を訪れました。

出迎えてくださったのは、『高田酒造場』の代表・高田 啓世(たかた たかひろ)さんの一人娘、常務の恭奈(やすな)さん。焼酎蔵の5代目、高田家当主としては13代目となります。

この周辺の地主だった高田家は、地元農家に手伝ってもらいながら稲作を行っていました。ところがあまりに収穫高が多くて米俵が蔵に入りきれないほどになったことから、焼酎造りを始めることに。

創業以来の歴史を刻む、石造りの蔵と麹室(こうじむろ)

さっそく敷地を案内していただきました。

石畳の玄関を入って右手に鎮座するのは、高田酒造場のシンボルともいえる石蔵。人吉球磨地域で一番長い歴史を持つとされ、中にはコニャック樽、シェリー樽、スコッチ樽など5種類の樫樽に入った『オークロード』などの米焼酎が貯蔵されています。

2003(平成15)年の創業100周年を機に、仕込み用の蔵(画像上・奥の建物)を改築。石蔵に合わせて屋根に段差を設け、それぞれの建物が連続性を持つ建築デザインとなっています。

続いて見せてもらったのは「麹室」。創業当時から引き継がれる石造の建物で、製麹(せいきく:麹造り)を行っています。

サウナのように湿度の高い室内で、蒸したお米に麹菌をつけて培養。作業はすべて手作業で行っているため、10月から5月まで長期にわたって仕込み続けても、完成する米麹の量は限られます。

混ぜる重さで櫂棒(かいぼう)が湾曲

次に案内されたのは、仕込みと貯蔵を行う蔵。地中には創業当時から使い続けている一次仕込み用の甕が60基ほど埋められ、深さも大きさも様々です。甕によって発酵の成熟度合いが違ってくるといいます。

麹と水、酒母(しゅぼ:麹室で培養した米酵母)を混ぜ合わせて、数日間発酵。できた一次醪(もろみ)をホーロー製のタンクへと移して蒸し米と水を加え、さらに発酵させます。『山ほたる』の場合は一次仕込みからホーロータンクを使い、ほかの焼酎よりも二次仕込みの発酵期間を長く設けて、香りや甘みを引き出しています。

タンクの近くにはステンレス製の櫂棒が立てかけられ、よく見ると弓のように湾曲していました。タンク内で原料をかき混ぜる際に重さで負荷がかかり、年に一本は折れてしまうそう。

そんな重労働を、恭奈さん自身も小さな体で行っているというから驚きです。「家族経営なので、父と私をのぞいて杜氏は一人だけ。家業に入った当初は上半身に筋肉がつき過ぎて、スーツのジャケットが着られなくなりました」と恭奈さんは苦笑いします。

父娘が同じ学び舎で取り組んだ酵母の研究

蔵の見学が終わり、『山ほたる』を試飲させてもらいました。

鼻を近づけると、甘く柔らかな香り。ひと口含むと華やかなうま味が広がり、そのインパクトに驚かされます。鮮烈な印象を与えつつ、口当たりはまろやか。米焼酎でありながら吟醸酒を味わっているような感覚さえ覚えます。

「日本酒好きの方にこそ、試してもらいたい焼酎。焼酎が飲めない方でもトライしやすいと思います」と恭奈さん。「『山ほたる』を飲んでからは、こればかり」というファンも少なくありません。
飲んだ人をとりこにしてしまう香りと味わい。それに一役買っているのが、酵母の一部に使用している野生のナデシコから採取した「花酵母」の存在です。

近年、花酵母を使った焼酎も出回るようになってきましたが、『高田酒造場』が焼酎に花酵母を使い始めたのは、20年ほど前から。

東京農業大学で花酵母を取り出す研究に取り組んでいた社長の啓世さんが、熊本に帰郷して10年余りが経ったころ、恩師から「実験していた花酵母が採取できるようになったから、使ってみないか?」との連絡が入りました。

しかし、もともと日本酒用に作られた酵母だったことに加えて、当時は建て替え前の古い蔵だったことから、蔵付き酵母との相性や温度管理が弊害となり、焼酎造りは失敗の連続。ようやく花酵母を使った米焼酎が完成したのは、3年以上経ったころでした。

「同じお米を使い、仕込み方も仕込んだ時期もさほど変わらず、蒸留法も同じ商品がありますが、酵母の違いだけで全然風味が異なります。香り豊かで甘味を強く感じるのは、ナデシコの花酵母を使ったほう。飲み比べてみると、酵母だけでこんなに違うんだ、と分かります。球磨焼酎を造る蔵元でこの花酵母を使っているのはうちだけ。おかげで個性を出せています」と、父の奮闘に敬意を表する恭奈さん。

今回、鶴屋で限定販売する『山ほたる』は、通常販売している同商品よりアルコール度数が高い33度。『高田酒造場』で造る吟醸香系の焼酎は25〜27度でもっとも香りが立つといいますが、「ハナタレ」(蒸留する過程で最初に出てくる原酒)をブレンドすることで度数を上げつつ、香りも格段にアップしました。オススメは、やはりロック。氷が溶けるタイミングでフワッと広がる香りをお楽しみいただけます。

世界を見据えた新たな挑戦

実は恭奈さんも、父と同じ大学へ進み、同じ先生に師事。醸造や酵母の研究に携わった経験を生かして、花酵母を使った焼酎をはじめとする新商品づくりに取り組んでいます。

近年とくに力を入れているのが、焼酎と地元の農産物を使ったジン。熊本初のクラフトジンとして注目され、「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2020/2021」では金賞を獲得しています。

「焼酎は冬しか仕込まないので、夏に稼働していない蒸留機を活用できればと。そして何よりも、うちの焼酎をベースにジンを作ったら絶対においしいはず、と確信していました」

キズモノとなって廃棄されていた地元の果物を譲ってもらい、ジンの原料に。蒸留酒だと味・香りを生かして有効活用できるので、サステナブルな取り組みにも繋がります。将来は海外展開を視野に入れ、球磨焼酎を広く知ってもらうための足掛かりとして世界4大スピリッツであるジンの製造にも力を入れたいと、夢は大きく広がっています。

伝統と革新。小規模経営でこその戦い方

少量生産による小仕込み(こじこみ)だからこそ、幅広い焼酎造りにトライできるのが、『高田酒造場』の強み。

恭奈さんには小学生の子どもが2人いますが、仕込みの際には「僕たちも手伝う」と小さなバケツでお手伝いを買って出てくれるといいます。「幼いながら、しっかりと戦力になっています。2人とも後を継ぐと言ってくれていて、将来が楽しみです」とうれしそうに語る表情は、一人の優しいママです。

昔ながらの丁寧な手作業にこだわりつつ、米焼酎のイメージを覆すような新しい焼酎造りに挑み続ける。1902(明治35)年の創業時から培ってきたチャレンジ精神は、父から娘へと受け継がれ、次なる百年を見据えています。

Information

【高田酒造場】芳醇萬咲 限定 山ほたる

上質な酒米・山田錦と清冽な地下水、ナデシコの花酵母を一部使用して仕込んだ球磨焼酎「山ほたる」。発酵期間が長いため多くの量を作れない従来品に、もろみを蒸留する過程でとれる希少な原酒・ハナタレ(初垂れ)をブレンドした、鶴屋限定品をご用意しました。吟醸酒を彷彿とする芳醇な香りがインパクトを与えつつ、やさしい口あたり。ストレートまたはロックで口に含むと、フルーティなうま味が花開きます。焼酎で吟醸香を楽しむという新たな味わい方を教えてくれる一本です。

■ 5,500円(税込)
(本格米焼酎33度/720ml)※鶴屋限定販売

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