Vol.1 阿蘇ナチュラル・ジェイファーム

2022年に創業70年を迎えた鶴屋百貨店では、ふるさと熊本への感謝の気持ちを込めて、鶴屋限定ギフトを開発しました。今回はその一つ、「あか牛ロールキャベツとビール煮のセット」の開発にご協力いただいた『株式会社 阿蘇ナチュラル・ジェイファーム』を取材。商品の開発秘話や作り手の思いについて、話をうかがいました。

「あか牛ロールキャベツとビール煮のセット」の盛り付け例。(画像はイメージです)

南阿蘇村を拠点とする『(株)阿蘇ナチュラル・ジェイファーム』は、九州・熊本の厳選した原料を使ってドイツマイスターの伝統製法による食肉加工品を製造するメーカー。「阿蘇の逸品」シリーズのハムやベーコン、ソーセージなどを詰め合わせたセットは、鶴屋の贈答用ギフトとして例年ご好評をいただいています。

阿蘇に2店舗、熊本市内に1店舗の直営レストランを展開する同社。今回開発した鶴屋限定ギフト「あか牛ロールキャベツとビール煮のセット」は、熊本を代表する「あか牛」をメインに、レストランのクオリティーをご家庭でお楽しみいただける本格洋食2品。

これらを開発したのは、直営レストランの一つで熊本市内に店を構える『ゲルマンハウス』の料理長・坂口智之さんです。そこで、まずは『ゲルマンハウス』を訪れました。

熊本県庁東門入口を入って右手にある『ゲルマンハウス』。『(株)阿蘇ナチュラル・ジェイファーム』で製造するハムやソーセージ、あか牛などを使った欧風料理が味わえます。

3つの直営レストランでは『(株)阿蘇ナチュラル・ジェイファーム』のマスコットキャラクターがお出迎え。

ヨーロッパの街角を思わせる外観もさることながら、扉をくぐると、さらに驚かされます。中世ドイツを描いた立派な壁画やシャンデリア、高級陶器ブランド・リヤドロの精巧な陶芸アートが出迎えてくれます。

こちらの店舗を含むレストラン3店舗は、内装すべてがドイツの伝統建築をもとにオーストリア人の建築家によって忠実に再現。建材もヨーロッパから船便で取り寄せ、オーストリアからはるばる職人を招いて手がけたという徹底ぶりです。

『ゲルマンハウス』の瀟洒な店内。本場ヨーロッパのレストランを訪れたよう。

直営レストランのシェフたちが手間暇かけて手づくり。あか牛ロールキャベツとビール煮

さっそく、「あか牛ロールキャベツとビール煮のセット」の2品を試食。まずは「あか牛ロールキャベツ」からいただきます。

こちらのロールキャベツはレストランのメニューにも載っていない、鶴屋限定ギフトとして特別に開発された一品。自家製ベーコンで巻いたその大きさは、手のひら以上!

マッシュルームやしめじ、玉ねぎなどの具材が入ったホワイトソースをからめて頬ばると、キャベツの甘さと牛肉のうま味が、口いっぱいに広がります。

「できる限り熊本産にこだわりたい」と、キャベツは高原野菜として名高い阿蘇郡波野村産を採用。箸で切れるほど柔らかく煮込んでありつつ、中に包まれた牛肉はつなぎを一切使っていないので、しっかりとした赤身肉のうま味を感じることができます。パスタを敷いた上に盛りつければ、食べざかりのお子さんも大満足の一皿に。

続いて試食したのは、「あか牛のビール煮」。こちらはレストランでも提供されている、一番人気のメニューです。

長時間煮込んだネック部分のあか牛肉は、ゼラチン質がトロミとなって溶け出し、繊維質がホロホロとした口当たりに。長年継ぎ足してきたブイヨンを加えたソースは、隠し味のドイツの黒ビールでコクをプラス。ホール(粒)ごと煮込んだブラックペッパーがアクセントとなり、奥深い味わいが広がります。ボイルしたブロッコリーやバゲットを添えれば、ビールにもワインにもぴったりなご馳走の完成です。

「手のかかる煮込み料理、それもレストランの味を、ご家庭で手軽に味わっていただきたい。満足していただけるボリュームにもこだわりました」と、料理長の坂口さん。あか牛をまるごと一頭買いすることで、さまざまな部位をいかしたあか牛料理の提供を可能にしています。

「あか牛は、赤身肉ながら適度にサシ(脂肪分)が入り、しっかりと食べ応えがありつつ柔らかいのが特長です。黒毛和牛と比べてくどくなく、どれだけでも食べられる。健康への関心が高まる今、幅広い年代の方に喜んでいただけると思います」と語るのは、『(株)阿蘇ナチュラル・ジェイファーム』取締役の森孝臣さん。ドイツが認定する食肉加工品製造マイスターの国家資格を持つ、日本屈指の食肉マイスターでもあります。

ちなみに、ハムやソーセージなどの食肉加工品をメインとする同社が、冷凍の総菜を鶴屋で販売するのは初めてのこと。長引くコロナ禍でテイクアウトの需要が増え、急速冷凍機を導入したことから、これまでレストランでしか味わえなかった味を、ギフト商品として提供できるようになりました。

「うちはハムやソーセージなどの加工肉がメインですから、総菜を大量に作る設備がありません。3つのレストランで長年働くシェフたちがキッチンで手間暇かけた手づくりの味ですから、多くの方にお楽しみいただきたいです」

「世界に通用するハムやソーセージをつくる」。本場ドイツのコンテストで数々の金メダルを受賞

試食を終えて次に向かったのは、南阿蘇の本社工場です。

広々とした高原に工場を構え、視界の先には外輪山。阿蘇の大自然の恩恵を受け、昔ながらの製法でハム、ベーコン、ソーセージなどの食肉加工品をつくっています。

2つの直営レストランと隣接する本社工場。周囲には阿蘇ファームランドなどの観光スポットが点在します。

マイスター・森孝臣さんの父で『(株)阿蘇ナチュラル・ジェイファーム』代表の森光臣さんが会社を立ち上げたのは、1987年のこと。そして2001年、現在の場所に本社工場とレストランが完成しました。

「食の原点に返り、伝統ある製造方法を継承しながら、品質重視の食品を製造したい。食を通してふる里の発展に寄与したい」。そんな熱意を抱いて仕事に取り組む父の背中を見て育った孝臣さんは、その意志を継ぐべく単身ドイツへ渡り、4年間修業。職業学校へ通いながら職人の資格を取得したのち、資格所有者のみが受験できるマイスター試験にも合格。2009年、ドイツ認定の食肉加工品製造マイスターとなりました。当時、日本人の取得者は10人にも満たない、難関の国家資格です。

日本で数少ない食肉加工品製造マイスターの資格をもつ森孝臣さん

帰国後はこうしたドイツ伝統の製法をもとに、九州・熊本の厳選した原料を使い、 日本人向けに配合などのアレンジを加えたレシピで商品を製造。「世界に通用するハムやソーセージをつくる」という熱意は全スタッフたちに共有され、本場ドイツの食肉加工コンテストでは2000年の初参加以降、金賞を含む多くの賞を受賞し続けています。

本場ドイツやオーストリアから導入した機械はピカピカに磨かれ、長年使っているとは思えないほど。衛生管理の行き届いたクリーンな環境でベーコンやソーセージが製造されています。

ハム造りの様子。余分な脂をていねいに削ぎ落とし、独自にブレンドしたスパイスを商品ごとに使い分け、手でしっかりと擦り込みます。

「時期によって乾燥、燻製するときの温度や時間を変えています」。職人さんから説明を受ける、鶴屋食品部・佐村(左)。

仕上げは遠赤外線効果のある炭火で乾燥させた後、大型の直火式スモークハウスで山桜の自家製スモークチップを使ってじっくり燻製。温度や湿度を見計らいながら火加減を調整するなど、最後まで気の抜けない作業を経て、「阿蘇の逸品」シリーズのベーコンやソーセージが完成します。

あか牛が放牧された阿蘇の風景を次世代へ残したい

2013年、阿蘇は「世界農業遺産」に認定されました。世界有数の規模を誇る阿蘇のカルデラに広がる大草原は、千年以上も昔から野焼きや放牧などを繰り返すことで維持され、多様な農業、希少な動植物、伝統的な農耕文化に繁栄をもたらしてきました。

こうした阿蘇に息づく悠久の営みと、500年以上の歴史を紡ぐドイツのソーセージづくりは、いずれも人の手を介して脈々と受け継がれ、支えられてきた共通点があります。

「車で阿蘇を走っていると、放牧されているあか牛がすぐそばを歩き、草を食べている。そんな光景は、日本でなかなか見られないと思います。のびのびとした環境で育つあか牛は阿蘇の象徴ともいえますから、そうした文化を残していきたいですね」と孝臣さん。

将来は、食に関わるモノづくりの職人が集う村「阿蘇マイスタードルフ」をこの地で実現させ、100年、200年先へとつながる食文化や伝統技法を次世代へ繋ぎたいとの夢が広がっています。

(左から)取締役でドイツ認定・加工品製造マイスターの資格を持つ森孝臣さん、鶴屋食品部・佐村、森さんと同じく取締役の光原寿一さん

Information

【阿蘇の逸品】
あか牛ロールキャベツとビール煮のセット

赤身肉のうま味と柔らかい肉質が特長の熊本県産あか牛(あか毛和牛)を使った、鶴屋創業70周年記念の限定ギフトセット。あか牛ミンチ肉を100%使用した「あか牛のロールキャベツ」は、阿蘇・波野村産キャベツの甘みとクリームソースのコクが肉の味を引き立て、一般サイズの2倍ほどある大きさは食べ応え十分。焼き目をつけた肉をドイツの黒ビール入りソースでじっくり煮込んだ「ビール煮」は、レストランで長年継ぎ足してきたブイヨンの深みが加わり、上品な味わいです。真空パックのまま沸騰したお湯で温めていただくだけで、レストランの味を再現。いずれも箸で崩れるほど柔らかく、幅広い年代にお召し上がりいただけます。

■5,400円(税込)

好評につき完売しました

Index 記事一覧

Vol.1 阿蘇ナチュラル・ジェイファーム

阿蘇ナチュラル・ジェイファーム

マイスターの挑戦。「食」を通して阿蘇の草原とモノづくりの伝統を未来へ繋ぐ

2022.05.25

Past 過去の取材記事

人とモノのストーリー 2021冬

造り手の思いが詰まった日本酒、焼酎、ワインたち。造り手がおすすめするとっておきの飲み方を、食事とのマッチングとともにご紹介します。(2021年夏に取材)

記事を読む

人とモノのストーリー 2021夏

ふるさと・熊本の気候風土や作り手の想いが詰まった「食」に注目。「くまもとの味、探訪」、5週限定連載でお届けします!(2021年夏に取材)

記事を読む

人とモノのストーリー

熊本でがんばる人たちの、ものづくりへの熱い思いと素敵な商品をご紹介します。「熊本のことが、もっと好きなる」。そんな物語がここに集まっています。(2018年〜2019年に取材)

記事を読む

熊本生産者レポート

熊本地震で被災された生産者の皆さまを取材。そこには「熊本で育まれ、受け継いできた商品を、お客さまの元へ届けたい」という切なる想いがありました。(2016年夏〜秋に取材)

記事を読む

熊本県産品を買って、熊本の復興を支援しよう。
ページトップへ戻る