Vol.2
DOBLE K(ドブレカー)
洗練された世界レベルの技で地元⾷材の魅⼒を引き出す
住宅街の細い路地に⾯したガラス張りの⼩さな空間。平⽇にも関わらず、開店と同時にお客様が次々と吸い寄せられていくお店があります。その名は『DOBLE K(ドブレカー)』。2021年のオープンと同時に話題を呼び、熊本のスイーツ好きの間では⼀⽬置かれる存在となっています。帯⼭⻄⼩学校の隣にある場所にお店を構えた理由を「⼦どもたちから元気がもらえそうだから」と、⼩⿃のようなささやき声で教えてくださったのは、オーナーシェフの塚本加奈⼦さん。
美⾷の国々で活躍。
その集⼤成となるお店を故郷・熊本で
オープン当初から注⽬を集めた理由。それは世界を舞台に活躍してきた塚本さんの華麗な経歴にありました。東京の専⾨学校を卒業後、都内のパティスリーに就職。その後、フランスへわたり「国家最優秀職⼈章(M.O.F.)」の称号を持つステファン・グラシエ⽒に師事。5年間の研さんを積んだあと、同⽒がUAE(アラブ⾸⻑国連邦)で新店舗を展開するのを機にドバイへ移住。その後、世界で活躍する⽇本⼈シェフの店『ノブ・レストラン』に引き抜かれると、ドバイの5つ星ホテル内にある同店直系のレストランで洋菓⼦部⾨の責任者として活躍。5年にわたるドバイ⽣活を経て、さらにスペインのバルセロナでも1年間活躍。10年以上もの⻑きにわたって世界の美⾷家たちが集まる国々でお菓⼦を振る舞ってきました。こうして世界トップクラスの店で腕を磨いてきた塚本さんが、なぜ故郷・熊本でお店を開いたのでしょう?
「バルセロナにいた頃に新型コロナのロックダウンが重なって。これまでを振り返り、この先何があっても後悔しない⼈⽣を歩んでいるだろうかと⾃問⾃答して。やっぱり最後は故郷でお菓⼦を作りたいとの思いに⾄り、ずっと思い描いていた夢を実現しようと熊本に帰ることを決意しました」(塚本さん)
フランスのパティスリーを思わせるシックな店内に並ぶのは焼き菓⼦、チョコレート、ショーウィンドーを彩る定番や季節のケーキたち。壁にはパリ時代に修業した師匠の著書をディスプレー。
フランス、ドバイ、スペインで活躍後、2021年3⽉に故郷・熊本で店を開いたオーナーシェフの塚本さん。
素材の持ち味を⽣かした
シンプルなお菓⼦づくり
こうして熊本へ帰郷した塚本さんがお店を開くにあたって⽬指したのは、海外⽣活の中で知り得たおいしいお菓⼦の味を熊本の皆さんに楽しんでもらうこと。
「⽇本のお菓⼦って、ふわふわと軽くてたくさん⾷べられるイメージがあるのに対して、私たちのお菓⼦は⾷事の締めくくりを印象づけるような⽴ち位置。⼩ぶりな中に味わいをぎゅっと凝縮しています。サクサクやクリーミーな⾷感、酸味や⽢味といった味わいの変化。そうしたさまざまな“層“を楽しんでもらいたくて」と塚本さん。
トレンドに引っ張られることなく、⾒た⽬で味が想像できるもの、素材の持ち味を⽣かしたシンプルなお菓⼦づくり。最初に修業したパリ郊外の師匠から学んだことが、ケーキ作りのベースとなっています。
では、海外仕込みのお菓⼦をそのまま再現しているかといえば、そうではありません。欧⽶菓⼦の本場・フランスで培った確かな技術。オリエンタル・キィジーヌを提供する⽇系の⾼級レストランで知った、和素材とスイーツとの巧みな融合。⻑きにわたる海外修業で得た知⾒をベースに、帰国後に出合った熊本の⾷材の持ち味を最⼤限に⽣かす。それこそがスペイン語で「ダブルK」を意味する『ドブレカー(DOBLE K)』の店名に込めた思い。「Kumamoto(熊本)の⾷材を使い、Kanako(加奈⼦)が⼿掛けたおいしいお菓⼦を楽しんでもらいたい」へと繋がっています。
熊本素材の魅⼒を再発⾒できる
鶴屋限定の焼き菓⼦セット
熊本のパティスリー界に新⾵をもたらした同店に今回、鶴屋のお中元ギフトとして開発してもらったのは、熊本素材の魅⼒が詰まった焼き菓⼦のアソートです。
まずはハートの形が愛らしい「熊本⽩桃とラズベリーのケーキ」。アーモンド⼊りの⽣地に熊本県産の桃のコンポートを混ぜ込んで焼き上げ、熊本レモンのアイシングをトッピング。ココナッツオイルでアクセントを加えたトロピカルな味わいへと仕上がりました。
続いて「阿蘇グリーンシナモンのクッキー」は、クッキーから広がるグリーンシナモンの爽やかな⾹りと優しい⽢さ、あいだに挟んだ⽢酸っぱい天草産晩柑ジャムとの対⽐に驚かされます。そしてお店で定番⼈気の「天草塩のガレット」はサクサクとした軽やかな⾷感、バターやアーモンドの⾹ばしさと天草塩の⽢塩っぱさが絶妙なバランス。
そのほかにも、上品な⽢さを持つ『⻄岡養蜂園』の蜂蜜を⽤いてフランスで学んだレシピで作る「⼋代はちみつのフィナンシェ」や、しっとり⾹ばしい⽣地から柑橘やベリーの⾵味が広がる「⽟東町のレモンとベリーのアマンド」など。ティータイムはもちろん、⾷後でも気軽につまめる1⼝サイズが嬉しい詰め合わせです。
地元⾷材との出合いを通じて新たなお菓⼦づくりへ
オープンから4年が経ち、厨房を任せられるスタッフたちも順調に育ってくれているそうです。最後に今後の展望についてうかがうと、これまで作ってきたお菓⼦をブラッシュアップしつつ「熊本の⾷材を開拓したい」とのこと。
海外の⼀流店で腕を磨いたシェフに⼀歩でも近づきたいと、厨房では若⼿パティシエたちが切磋琢磨しています。
「熊本に⻑年いなかったこともあって、地元の⾷材をもっと知りたい気持ちがあって。お店が軌道に乗るこれまでの間はほとんど厨房の中にいたので、これからは⽣産地に出向いて新たな⾷材を開拓していきたいです」(塚本さん)
すでに使っている⿊糖やフルーツも⼀般的には知られていない産地のものだったりしますが、これらは仕⼊れ業者から情報を仕⼊れたり、農家さんとの対話の中で「実はこんな農作物も作っています」といった提案をもらったり。こうした顔の⾒えるコミュニケーションを広げながら熊本の⾷材を開拓しつつ、知識と技術を磨きたいと語ります。
「熊本にはまだまだ知らない、使いこなせていない⾷材がたくさんあると感じています。新しいことに挑戦されているエネルギッシュな農家さんも多いので、そうした⽅々とのご縁を通じてイメージを膨らませ、新たなお菓⼦をうみ出していきたいです」。
これから先に待つ新たな⼈や⾷材との出会いによって、ドブレカーのお菓⼦がどう進化していくか。ますます楽しみです。