100%以上の復興を目指す熊本生産者レポート

2016.11.8

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201611月

南阿蘇屈指の観光スポット、阿蘇ファームランド内に本社を構える菓子メーカー『古今堂』。熊本地震による壊滅的な打撃で一時は倒産が危ぶまれたものの、周囲から支援を受けて一歩前へと踏み出しました。菓子づくりに込めた、復興への想いとは。

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『古今堂』の創業は1994年、代表の山村 修一さんが夫婦二人三脚できんつばを販売したのが始まり。わずか20年ほどで熊本を代表する菓子メーカーのひとつとして知られるようになりました。急成長した理由のひとつに「阿蘇から発信する県産品」としてのこだわりがあります。

「主原料として阿蘇の牧場から届くジャージー乳を使っています。通常の牛乳より濃厚なぶん、砂糖を控えてもしっかりした味わいになる。卵も水も地元産、小麦粉や米粉は熊本県産を使うためコストはかかりますが、リピーターとなってくださる方も多いんです」

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と、営業本部長の新村博文さんは語ります。

こうした地元産へのこだわりを結集させたのが、阿蘇を体現すべく2013年に開発した、生チーズ饅頭“一五九二”(ヒゴクニ)です。 国際味覚審査機構の食品コンクールで三ツ星を受賞した『阿部牧場』 の絞りたて牛乳“ASO MILK”から作る自家製クリームチーズを使った餡や生地は、とろけるような口当たりとミルキーな甘さ。 上生菓子とレアチーズケーキを掛け合わせたような美味しさが評判を呼び、瞬く間に『古今堂』の看板商品へと成長しました。

霊峰・阿蘇高岳の標高「1592」メートルと「肥後の国」という2つの読み方からとった商品名にも、 郷土を代表する菓子にしたいとの想いがうかがえます。誕生から約3年、着々と販売数を伸ばして全国展開を見据えていた矢先、あの熊本地震が起きました。

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本震のあった4月16日、本社へ駆けつけた新村さんは自分の目を疑いました。

「変わり果てた惨状を目にして、気が遠くなりそうになりました。天井はすべて剥がれ落ち、商品も製造機器も瓦礫とホコリに埋もれていた。ただ、震災の起きた時間が深夜でしたので、お客さまや従業員に被害が及ばなかったことが、せめてもの救いでした」

当初は復旧の目処がたたず、一時は倒産の危機に陥った『古今堂』。 益城町にあった山村社長の自宅も全壊して避難生活をおくっていました。 しかし、山村社長は「ここでくじけたら社員やお客さまを裏切ることになる」と踏ん張り、工場を再建することに。 設備投資と運転資金にかかる約8億円を金融機関の緊急融資によって借り入れ。 全従業員に「ひとりも解雇はしない」と伝えました。

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「営業再開までの約2カ月は瓦礫を撤去する日々で、売り上げはゼロ。 それでも私たち従業員に給与やボーナスを用意してもらい、申し訳ない気持ちでした」と振り返る新村さん。

「一番大変な状況の社長がこれだけ頑張っているのだから、恩返しせんといかん」

従業員64人は心をひとつにして、復興を誓い合いました。

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不安に過ごす従業員や商品の復活を心待ちにするお客さまのために、1日でも早く営業を再開させたい。 そうした中、取り引き先の製造機器メーカーが敷地の一部を無償で提供してくれることになりました。そこで仮工場を設け、 今年6月に待ち望んでいた製造を再開。

もともと製造していた17アイテムを主力商品の4アイテムに絞り、生産数はこれまでの半分以下。 “一五九二”の原料となる自家製チーズは仮工場で作るのが難しいため、取り引き先にレシピを提供してチーズを製造してもらっています。 また生地の表面に印字されていた“一五九二”の焼印は震災で破損したため、現在は焼印なしで販売。

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壊滅的な打撃を受けた本社工場を一旦は移転する計画でしたが、建物を調べてみると骨組みが無事で耐震基準もクリア。 同じ阿蘇ファームランド内で工場を再建する準備が進められています。これまでよりさらに広い約1万1千平方メートルの敷地に、 延べ床面積約2500平方メートルの工場を建設。2017年2月末の完成を目指します。

工場が完成すれば全アイテムのラインが復活。その日に向けて既存商品のデザインを変えたりクリームを増量したりと、ブラッシュアップしている最中とのこと。焼印なしで販売中の“一五九二”はレーザー印字へと進化し、企業ロゴやキャラクターなど様々なマークを饅頭に刻印できるようなります。

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「新しい社屋は店舗から製造工程が見えるよう工場側の壁をガラス張りにして、 工場内も見学できるようにします。 被災した近隣小学校の子供たちを招待して、体験工房などもできれば。阿蘇で育ったブランドですから、 私たちが作るお菓子を通じて、阿蘇の魅力を全国の方に知ってもらいたい。この場所でもう一度、みんなでスタートしたいです」

その日を待ち望む新村さんの表情はイキイキとしていました。

取材・文/三角由美子 写真/下曽山弓子

※本記事の情報は2016年10月取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。

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古今堂(菓舗あそりんどう)

所在地: 〒869-1404 熊本県阿蘇郡南阿蘇村大字河陽5579番地3
電話: 0967-67-0067

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一五九二“ヒゴクニ”(9個入り)

「食のミシュラン」といわれる国際味覚審査機構の食品コンクールで三ツ星を受賞した、『阿部牧場』の牛乳“ASO MILK”を使った生チーズまんじゅう。 自社製クリームチーズと白餡を練り上げ、形が保てないほど柔らかな生地でくるみ焼き上げた、和洋折衷のリッチな味わい。

1,173円(税込)

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