100%以上の復興を目指す熊本生産者レポート

2016.11.28

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201611月

約30年前、都会からやってきた青年が、南阿蘇を代表する農園まで育て上げた「木之内農園」。しかし、熊本地震によって阿蘇大橋が崩落し、道路は寸断。経営の根幹を支えていたいちご畑が壊滅状態となりました。地区全体が甚大な被害を受けた南阿蘇村立野で、人気商品のジャムで復活を目指す様子を取材しました。

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東京育ちの木之内均さんが農園を始めたのは、1985年。南阿蘇にキャンパスをもつ九州東海大学農学部を卒業し、そのまま南阿蘇へ残り、畑を借りて農業をスタートしました。

「当時は新規就農という言葉もなかった時代。地元で農業を学んだとはいえ、全くのゼロからの出発でした。周りからの応援を得てなんとか農業を続けることができました」

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そう代弁するスタッフの宮ア龍太さんもまた、10年前に広告業界から転職したひとりです。木之内さんは地元に溶け込もうと地域の活動や行事へ率先して参加。やがて協力者が増え始め、農業者として認められるようになっていきました。会長職となった木之内さんから経営を引き継いだ、現社長の村上進さんも関東出身で、前職はグラフィックデザイナーとして活躍した異色の経歴をもちます。

栽培の主軸は、いちご。始めた当時は阿蘇で栽培する生産者がなかったこともあり、売上が毎年倍増したといいます。家族だけでは人手が足りず、収穫しきれないぶんを来園者に食べてもらおうと1989年から「いちご狩り園」を始めたところ、このアイデアが成功。1997年に法人化して木之内農園を設立しました。

マーケティング動向を意識して観光農園を経営してきた木之内さん。実践を通して身に付けた経営感覚を買われ、東海大の特任教授や海外進出を目指す企業をサポートするなど、ジャパニーズ農業を国内外へ広げるべく駆け回ってきました。

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この農園で観光いちご狩りとともに二本柱となってきたのが、ジャムの加工販売です。不揃いのいちごを有効活用しようと作り始めたところ、その美味しさが評判となり、農園の名が熊本で広く知られるキッカケとなりました。原料を自社栽培できる強みを生かして新鮮な果実を贅沢に使い、瓶に隙間なく詰まっているのがひと目で分かるほど。

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「ジャムを1キロ作るためにイチゴを1キロ使いますので、必ず果肉にあたります。塗るというより“のせる”感覚。保存料を使わないジャムとしてはギリギリの糖度50度弱に抑えています」

色、味、トロミいずれもイチゴ加工に最適な県産いちごの品種特性を活かしてブレンドし、果肉を程よくつぶすことでお母さんが家で作るジャムのような懐かしい味に。

ほかにも、南阿蘇近くの山都町で採れたブルーベリー、世界一大きい柑橘とされる“晩白柚(ばんぺいゆ)”と新規就農仲間が栽培したデコポン系の柑橘“デコいち”をブレンドしたジャムなど、熊本らしいジャムを作ってきました。

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ところが、熊本地震によって農園のある立野全体が大きな被害を受けたました。周辺の住人はほとんど退去し、復旧作業者する人や車しか見かけません。何万年も緑で覆われていた原生林の山々は山肌が爪痕のようにえぐられ、むき出しとなっていました。農園から数分歩くとアスファルトの地面が粘土のようにグニャリと歪み、道路は寸断。もともと地震で緩んでいた地盤が、梅雨の集中豪雨によって完全に崩落していました。

骨組みだけとなったハウスに足を踏み入れると、乾いた大地が大きく隆起。イチゴを栽培していた形跡は、ほとんど見当たりません。広さにして700平方メートル、7割のいちご畑を失いました。

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「地震から1週間ほど経ってひと段落した頃、いちご狩り用に栽培していた果実をジャムに加工できればと足を運んだものの、すでに枯れていました」

メディアでたびたび報道された阿蘇大橋の崩落。実はこの橋が、谷の向こうにある水源地から立野まで農業用水を通す役割を果たしていました。農園へ繋がる用水路も完全に壊れてしまい、同じ場所で農園を再建するのは、早くても数年先となる見込みです。

「梅雨の集中豪雨で立ち入り禁止となり、復旧作業がままならないときもありました。ですが、さまざまな団体や著名なアーティストなど1,000人以上の方にボランティアで訪れていただき、片付けや草刈りなどを手伝ってもらいました。また救援物資や温かい励ましを全国からいただき、ご恩に報いるためにも力を合わせて、この困難を乗り越えていきたいと思っています」

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現在も上水道や農業用水が復旧しておらずトイレさえ使えない状態のため、必要な水を自分たちで確保しようとボーリングで地下を掘っている最中です。本社の農園以外に点在する畑では、水がほとんど必要ないソバを栽培し、収入の足しにしています。主力商品だったジャム加工も再開。原料に使ういちごは、熊本県内の農家仲間から仕入れて対応しています。

「例年であれば秋に苗を植え付け、半年ほどかけてイチゴ栽培を行っていました。現在はいちごの苗をかき集め、残った近隣地区の畑で栽培しているところ。ジャムを作る工程には殺菌などで使う水が毎日2トンは必要なため、知人を頼りに確保しています。ジャム用には支援物資でいただいたペットボトルの水を代用。これまで当たり前のように蛇口から出ていた水が使えず、水のありがたさを感じています」

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収入源を確保し、近隣地区への加工場移転と農園の完全復活に向けて少しずつ前進している、木之内農園。

「立野地区は空港や熊本市内から近く、大分や福岡からも車で足を運びやすい便利な立地。いちご狩りには香港などを中心に、海外からのリピーター客も多く訪れていました。観光地としても魅力のある場所ですから、新しく阿蘇大橋がかかる数年後には、またこの場所で再開したいと思っています」

果実と復興への思いがたっぷり詰まったジャムで、農園の再スタートを目指します。

取材・文/三角由美子 写真/山口亜希子

※本記事の情報は2016年10月取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。

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木之内農園

所在地: 〒869-1401 熊本県阿蘇郡阿蘇村立野203-1
電話: 0967-68-0552

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