Vol.1 滝下さんのマンゴー

500個なる木から150個のみ選抜。
「また食べたくなる味」を求めて高みを目指す

本場からも視察に訪れる、“美人ぞろい”のマンゴー

南国発祥の高級フルーツ、国産マンゴー。国内の産地としては宮崎県や沖縄県が知られていますが、そんな本場の農家たちが視察に訪れるマンゴー栽培の達人が熊本にいます。それが熊本県水俣市で20年にわたってマンゴーの研究開発を行ってきた『滝下果樹園』の代表・滝下幸伸さん。彼が手がけるマンゴーは色・形・香りすべてにおいて格別と、高く評価されています。

もともとデコポンや甘夏などの柑橘類を作っていましたが、より希少性の高いフルーツに挑戦したいとマンゴー栽培を始めることに。ところが当時、熊本にはマンゴーの指導者がおらず、タイや台湾、フィリピンなどを訪ね歩きながら独学で試行錯誤を重ねてきました。「今振り返れば、それが良かったとです。もし誰かに既存のやり方を教わっていたら、独自の栽培法は生まれませんでしたから」と滝下さんは自信をのぞかせます。

では、ほかのマンゴーとどこが違うのか? それは見比べてみると一目瞭然です。滝下さんのマンゴーは頭からお尻にかけてルビーのような深い赤。全身くまなく完熟していることが分かります。丸くつるんと形の整った卵型は、滝下さんいわく“美人さん” ぞろい。剪定や温度管理、日照時間といったさまざまな創意工夫による賜物です。

「独学でいろんな栽培法を試してきました」と語る滝下さん

風光明媚な山あいに立つ連棟ハウスで栽培

「超低樹高栽培」と高度な剪定技術がうみ出す最高峰の果実

果樹の中でもとくに栽培が難しいといわれるマンゴー栽培。参入した農家が次々と撤退していく中、探究心旺盛な滝下さんは独自のスタイルを確立させてきました。そしてたどり着いたのが、「超低樹高栽培」です。ビニールハウスの中で樹木を膝丈80cmほどの高さに制限するこの栽培法。樹上にマンゴーの実を吊り下げることで、朝から夕方までまんべんなく日光を浴びて成長できる仕組みです。

「ただ、ものすごく手間がかかるんです。枝を1本1本紐で引っ張り、高さを下げていますから。放置していると上にどんどん伸びてしまうので、枝を木に結びつけるなど工夫をしながら。おかげで一年中、暇なんてありません」と苦笑い。

そしてもう一つの強みといえるのが、柑橘栽培によって培った高度な剪定技術にあります。枝の伸ばし方を見極めることで栄養分や甘さがほど良く行きわたり、色づきの良いマンゴーへと成長。「剪定する位置によって芽の吹き方がまったく変わってくるので、そこを見極められんと栽培は上手くいかない。そこが、マンゴー栽培の難しいところです」

1月中旬の開花時期には葉が見えなくなるほど花が咲き誇り、ほぼ100%受粉するそう。受粉すると1本の木に500個ほどの実がつきますが、その中から良いものだけを残し、最終的には150個ほどに選抜されます。素人目にはもったいなくも見えますが……。「一番いいやつだけを残して、ほかの成長を止めるんですよ。そうすると分散されていた栄養分が残った実に集まるでしょう? だから一級品のマンゴーが育つ。それに元気な予備枝を半分以上残しておけば、成長に余裕があるから次年度また花がつくんです」。そう言われて納得。

選抜されたマンゴーは収穫前にネットをかぶせて樹上で熟成。果実の隅々まで色づくよう“企業秘密”の手作業を施しながら、自然にちぎれて落果するまでじっくりと待ちます。こうして食べ頃の完熟マンゴーがようやく完成。これまでに何度も失敗を積み重ね、改良を重ねてたどり着いた、現在の栽培法。だからこそ、「モノが違います。南国でも、こんなに上等なマンゴーは育ちませんよ」と絶対の自信があります。

日光がまんべんなく当たるよう、低く育てた木の上にマンゴーを吊り下げて育てます。これからネット掛けて熟成させると一層赤く色づくそう

「マンゴー栽培ほど、手間もお金も掛かるものはない」

広々としたハウスに鈴なりとなって吊り下げられ、ゆっくり完熟していくマンゴー。高値で取引される高級品のイメージがあるだけに、農業経営としては有利かと思いきや。「とんでもない。もともと柑橘だけを作っていたからよく分かりますが、こんなに手のかかる栽培はないですよ」との答え。

ハウス内の温度調節や日照状態に毎日気を配り、樹木の高さ調整やマンゴーのネット掛け、色付け作業に至るまで、一つひとつ手作業。農繁期は作業が明け方から深夜におよびます。春から初夏にかけて収穫・出荷が終わると、すぐに次年度の剪定作業がスタート。また南国と事情の異なるのが温度調節で、11月から6月上旬のあいだは昼夜問わずボイラーを焚き続けます。

「昼と夜では温度を変え、開花などの成長時期ごとに温度を調整しています。温度が低いとキレイな卵形にならないし、高いと高温障害を起こして味がおかしくなる。手間も経費も掛かっていますから、これで安いと利益なんて出ませんよ」と苦笑い。そう言いながらも、手塩に掛けた畑を見渡す滝下さんの表情は満足そうです。

「あと1週間もしたら、色がもっと濃くなって紫がかってきますよ。真っ赤に実ったマンゴーが鈴なりとなったハウスは圧巻です」

秋の終わりから初夏にかけてボイラーの熱でハウス内の温度を調整。夜は25度、昼は30度前後がマンゴーの生育にちょうど良いそう

日々決して妥協しない。収穫も選果も自分の目で確かめて

この日訪れたビニールハウス以外の2カ所でもハウス栽培を行っており、1カ所につき8000個ほどのマンゴーがなるそう。収穫の際にも細心の注意をはらいます。完熟するタイミングに合わせて収穫を分けて行いますが、人の体が触れるだけで傷つく恐れがあるため、残った実が少ない3回目の収穫作業は、滝下さんひとりだけ。

そして出荷前には、剪定の時点で選抜していたマンゴーをさらに厳選。収穫後は選果場に任せる農家も少なくない中、滝下さんは一つひとつみずからの手で確かめながら、出来映えの良し悪しを選別します。「そうすれば何かあったときも自分で判断がつくでしょう?」。厳選に厳選を重ねたマンゴーだけが、晴れて化粧箱に入った贈答用として出荷されているわけです。

それだけではありません。出荷時期には試食を兼ねてマンゴーを食べるのが日課だそう。毎日食べていると味の微妙な変化に気づけるため、少しでもおかしいと感じたときは化粧箱入りの出荷は見合わせることも。「そうした事例は、ほとんどありませんけどね」と滝下さんは笑います。

「滝下さんが1個ずつ選果されているだけあって、味も形も良いものばかり。自信をもってお客様におすすめできます」と、取材に同行した果物売場担当・下田(右)

甘さも香りもほど良い、「飽きない味」が理想

マンゴー栽培を始めて20年あまり。現状に甘んじることなく、新たな生育法を実験中と語る滝下さんが目指しているのは、「飽きない味」です。マンゴー特有のクセがなく、とろけるような口どけの後に甘さが広がり、爽やかな余韻が残る。甘さも香りもほど良くバランスの取れた味が理想だといいます。

マンゴーの味わいをダイレクトに楽しむならカットしてそのまま食べるのが一番ですが、一口サイズにカットしてガラスの器に盛り付け、プレーンヨーグルトを少しかけて味わうのもお勧めとのこと。「マンゴーの甘さとヨーグルトの酸味がクセになって最高です」と太鼓判を押す組み合わせ。ぜひ試してみたいでものす。あのマンゴーが、もう一度食べたい。そう言われる味を求めて、滝下さんはさらなる高みを目指しています。

Information

滝下さんのマンゴー2玉

熊本県水俣市の『滝下果樹園』が独自開発した超低樹高のハウス栽培による完熟マンゴー。地面を覆うように枝葉を伸ばすことで日照時間を長くして成長を促進させ、収穫前にネットをかぶせて自然に落果するまで完熟させます。頭からお尻まで赤く色づいた、食べ応えのある2玉セット。とろけるような口溶けと豊潤な甘さをお楽しみください。

■生産者:熊本果実連JAあしきた・水俣市 滝下幸伸さん
■2玉入り 8,640円(税込)
■承りからお届けまで、10日〜2週間ほどお日にちをいただく場合がございます。

好評につき、完売いたしました

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