Vol.1
山鹿蒸溜所
山鹿の風土と人が醸す、唯一無二の味わい。
熊本発のシングルモルトジャパニーズウイスキー、いよいよ誕生
「やさしく綺麗な味の中にも、時を掛けた力強さのあるウイスキーを造りたい」。そんな思いから2021年、熊本県山鹿市に誕生した『山鹿蒸溜所』。竣工から4年目を迎え、ついに待望のシングルモルトジャパニーズウイスキー「山鹿 ザ・ファースト」がリリースされました。ファーストリリースでありながら、早くも愛好家の間で話題となっている記念すべきウイスキーを、鶴屋ではお歳暮ギフトとして販売します。そこで現地を訪ね、この一本に込められた物語を体感してきました。
山鹿の風土を映すウイスキーづくり
そもそも、高品質なウイスキーづくりに欠かせないのは、「環境」と「水」です。熊本県北部に位置する山鹿市は、盆地特有の高温多湿な気候と、夏と冬で45度以上もの寒暖差を持ちあわせ、樽熟成にとっては理想の地。蒸溜所ではあえて温度や湿度を人工的に調整せず、自然の呼吸に任せて原酒を熟成させています。
さらに、仕込み水には地下100メートルから汲み上げた菊池川水系の深層地下水を使用。硬度60〜70度の良質な軟水がもたらす軽やかでやさしい甘みが酒質の根幹を支え、まさに「この地だからこそ生まれる味わい」が強みでもあります。
「自然」と「人」の共同作業によって生まれる一滴
さっそく敷地の中を案内してもらいました。蒸溜所にはビジターセンターが併設され、見学コースからは製造の様子を見ることができます。まず目にとまったのは、ステンレス製の発酵槽。こちらの蒸溜所では一般的なディスティラリー酵母に加えて、味・香りが華やかなエール酵母を採用。これらを麦汁に加えることで、蒸溜後に華やかで複雑な香味を与えてくれるといいます。
さらに見学用通路を進むと、眼下に現れたのは銅製蒸留器。胴体とネックの間に膨らみがある特注のバルジ型は、地元の伝統工芸「山鹿灯籠」をイメージさせ、冷却器に接続する渡りを上向きにすることで、軽やかながらも華やかな酒質の原酒に仕上げています。蒸留器に設置された覗き窓に目をこらすと、加熱によって醪(もろみ)がボコボコと泡立ち、元気に呼吸をしているようでした。
続いて案内されたのは、蒸溜所の奥に広がる貯蔵庫。一歩足を踏み入れると、レーズンを思わせる芳醇な香りに包まれました。バーボン、シェリー、ワインなどの熟成に用いられた約2,500もの樽が天井まで並ぶ光景は壮観です。現場を案内してくださった方によると「樽の種類やサイズ、さらには配置による湿度や温度のちょっとした変化が、ウイスキーの表情に違いをもたらします」とのこと。
貯蔵庫を出ると、屋外の脇で樽の傷みをていねいに修理するスタッフの姿がありました。私たち取材陣に気づくと「大切な子どもたちのことをよろしくお願いします」と声を掛けられ、立ち上げから携わってきたスタッフが注ぐ愛情の大きさがひしひしと伝わりました。まさに自然と人の共同作業によって、一本のウイスキーが生まれているのです。
試行錯誤の果てに見えた「山鹿らしさ」
見学が終わり取材に応じてくださったのは、常務取締役の寳代(ほうだい)純一さん。製造現場で奮闘するスタッフを支える立場として蒸溜所を見守り続けています。
今回のファーストリリースで最も心を砕いたテーマ、それは「山鹿らしさとは何か」との問いでした。樽熟成を手掛けてきた関連会社の知見を生かして目指したのは、女性らしい優雅さの中に、凛とした芯の強さのあるウイスキー。その理想を描くにあたって大きなインスピレーションとなったのが、静と動の美を併せ持つ「山鹿灯籠踊り」でした。
「山鹿灯籠踊り」を舞う優雅な女性を表現するには? 試行錯誤が続くなかで心掛けてきたのが、「全員参加型」のモノづくりです。「実は、私たちの蒸溜所には専門のブレンダーがいないんです」という寳代さんの言葉に驚きました。
数百もの候補樽からスタッフが構成比率を調整し、テストブレンドを作成。製造から営業企画の部門に至るまで、スタッフ全員がテイスティングに参加し、意見をぶつけ合いながら方向性を定めていったそう。楽しみながらも妥協なく追求する姿勢が、一滴一滴に宿っています。
それだけではありません。「山鹿らしさ」が込められたボトルデザインも自分たちで考案。山鹿灯籠を思わせる金色のエンブレムと、ウイスキーの深い色みを引き立てるボトルのカットデザイン。ボトルを手にした瞬間から、味わう前の期待感を高める仕掛けが隅々まで施されているのです。
フルーティー&クリーミー。優雅さと親しみやすさを兼ね備えた味わい
いよいよ試飲の時間です。3年以上の熟成を重ねて、ついにファーストリリースとなる「山鹿ザ・ファースト」とは、一体どんな味わいなのでしょう。
「まずはストレートで試してください」と勧められ、グラスを口に運びました。ひと口含むと、頭のてっぺんまで立ちのぼる華やかな香り。熟れた果実を思わせる完熟香が口いっぱいに広がります。ハチミツのように芳醇な甘さとシルキーな口当たりは、アルコール度数58度をストレートのまま飲んでいるとは思えないほど。心地よい余韻が静かに続くその味わいは、まるで山鹿の豊かな自然が時間をかけて語りかけてくるようです。
「チョコレートや焼き菓子などのスイーツと相性が良いですし、アイスクリームにひと垂らしすると風味が増して大人の味わいをお楽しみいただけます」と寳代さん。ロックで香味と親しみ、ソーダ割にすればフルーティーな味わいが華やかに弾ける。お酒が強くない方でも幅広く楽しめる一本だと感じました。目指してきたのは「エレガント」と「フルーティー&クリーミー」。ふたつのキーワードが示すとおり、優雅さと親しみやすさを兼ね備えた仕上がりとなっています。
「ニューボーン」から「ファースト」へ
ちなみに日本洋酒酒造組合が定めた「ジャパニーズウイスキー表示基準」では、3年以上の熟成がジャパニーズウイスキーの条件とされています。そのため『山鹿蒸溜所』では、これまで基準に満たない熟成年数の原酒を「ニューボーン=ウイスキーの赤ちゃん」として数量限定で販売してきました。
そして竣工から4年目となった2025年、ついに基準を満たしたシングルモルトジャパニーズウイスキーのリリースが実現。クリ樽を含む4種の樽で熟成させた原酒をブレンドした「山鹿ザ・ファースト」は、蒸溜所にとって第2のスタートともいえる節目のボトルです。それは、これまで見守り、応援してきた人々にとっても待望の瞬間でした。「いずれは原料の大麦や樽の素材にも山鹿産を用いて、正真正銘“オール山鹿”産のウイスキーにも挑戦したいです」と夢を語る寳代さん。
「まずは地元・熊本の人に飲んでもらいたくて」との嬉しい言葉をいただき、今回は鶴屋のために特別に限定数を確保してくださいました。山鹿の自然と人の手に育まれ、グラスを傾ければ、その物語が胸に沁みていく。「山鹿ザ・ファースト」が世界で注目されるジャパニーズウイスキーとなる将来は、そう遠くないでしょう。
記念すべきファーストリリースを、ぜひこの機会に手に入れてください。