Vol.3
キラリブルワリー
山鹿でキラリと輝く小さな手仕事のクラフトビール
熊本県山鹿市の国道325号沿いに、小さな灯りのように佇むクラフトビール醸造所があります。その名も『キラリブルワリー』。2023年2月にオープンしたばかりのこの醸造所は、「おいしいクラフトビールを自分たちの手で作りたい」という夫婦の情熱から誕生。地域の特産品を生かした個性的なビールづくりは、県内外のビール愛好者から注目を集めています。今回は製造責任者である奥さまの森ゆかりさんに、ビールづくりの魅力と2025年鶴屋お歳暮ギフトとして登場する「山鹿エールシリーズ」について話をうかがいました。
小さな扉の向こうに広がる夫妻の夢
国道325号を車で走っていても、目的地は外から見るとごく普通の町並みの一角。ここにクラフトビールの醸造所があるとは、なかなか気づかないでしょう。集合住宅の1階に並ぶ店舗の入り口を前に「こんな小さなスペースで、本当にビール造りが行われているのだろうか?」と半信半疑で扉を開きました。
森さんのにこやかな笑顔に迎えられ、ホッと安堵。店内へ足を踏み入れると、壁際にはポップなデザインが目を引く海外製クラフトビールの空き缶がずらりと並べられ、そこに込められた探究心と情熱が伝わってきます。
「もともと私も主人もクラフトビールが大好きで。気になる海外のビールをお取り寄せしたり、近くのクラフトビール専門店で飲み比べをしたりするうちに、造り手ごとの個性や味の奥深さに惹かれていったんです」と森さん。趣味として楽しむだけでは飽き足らず、「自分たちが飲みたいビールを自分たちの手で造ってみたい」との思いが、次第に強くなっていったといいます。
本業を続けながら夢をカタチに
もともと森さんのご主人の本業は、システム開発会社の経営です。クラフトビールとは全く異なる世界ですが、休日や本業以外の時間を活用しながら国内の醸造所へ通っては教えを乞い、夫婦で醸造について少しずつ知識を積み重ねてきました。そして醸造所づくりを目指し始めて3年余りの月日が経ち、ついにご主人の生まれ育った地元・山鹿市で『キラリブルワリー』をオープン。念願の一歩を踏み出しました。
現在はご主人がシステムエンジニアの専門知識を生かし、ブランド全般のデザインやウェブサイトの制作を担当。異なる分野の経験が、新しいブルワリーの個性を支えています。
「化学実験」のようなワクワク感
醸造スペースは驚くほどコンパクトですが、そこに凝縮された仕事は奥深いものがあります。麦芽の配合、ホップの種類や投入タイミング、酵母の選び方といった、ほんのわずかな違いが味に大きく響くといいます。「クラフトビールって、ホップや麦芽が違えば香りも苦みも変わる。工程のちょっとした違いが個性になります。ですから、同じペールエールでもブルワリーによって味わいが違うんです」と森さん。
さらにクラフトビールを醸造する魅力について「まるで化学実験のよう」と語ります。「糖度を測ってアルコール度数を逆算したり、酵素がデンプンを糖に変える過程を見極めたり。アルコール5%を出すにはおおむね糖度12%程度、IPAならもっと高い糖度が必要になります。麦芽の量や煮方で糖度は変わりますから、それらを見計らいながら結果を確かめる作業は実験そのもの。仕込んだ直後の麦汁はまるで甘酒みたいに甘い香りがするのですが、これを味わえるのも作り手だけの特権であり、醍醐味ともいえます」
伝統的な製法を守りつつ、醸造家自身のアイデアや試行錯誤がそのままビールの個性となって表現される。まさに職人的なクラフトマンシップを追求できる点に、クラフトビールづくりのおもしろさがあるのでしょう。
山鹿エールシリーズ ― 特産品を活かした2種のビール
今回、鶴屋のお歳暮ギフトとして用意していただいた「山鹿エールシリーズ」は、山鹿の素材を生かしたクラフトビール2種類のセットです。
まず「岳間(たけま)茶IPA」は、熊本県山鹿市鹿北町の岳間地域で栽培される岳間茶を原料に用いたビール。仕込みの段階で100リットルあたり約1.5kgの岳間茶を投入しますが、工程ごとに少しずつ加えることで、独特の香りや味わいを引き出しています。
グラスに注ぐと、白濁に淡い緑色を帯びた独特の液色に目を奪われました。ひと口飲むとIPA特有の奥深い苦味と、岳間茶のほのかな香りが広がります。冷蔵庫から出したばかりのときはキリッとしたシャープな飲み口でしたが、少し時間が経つと柔らかな口当たりへと変化。モルトの風味がふわりと広がる余韻へと変化していきました。一杯の中に移ろう表情があり、思わず時間をかけて楽しみたくなる味わいです。原料としてお米が用いられていることもあり、和食などの食事に合わせていただくのもオススメです。
そしてもうひとつは、山鹿の特産栗を使った「和栗浪漫エール」。今年の秋に収穫された和栗がぜいたくに使用されています。特徴的なのは、剥き栗だけでなく通常は捨てられる渋皮まで活用していること。「和栗を使っていますが甘いわけではなく、風味を楽しんでいただきたいビールです。渋皮を入れることでほのかなビター感が加わり、栗の香ばしさが引き立つのとともに、奥行きのあるビールへと仕上がっています」と森さん。こちらは栗を使ったスイーツとも相性が良いそうです。
山鹿の素材を通じて、土地のストーリーごと味わえる2種のクラフトビール。贈る人にも、飲む人にも、新しい発見を届けてくれることでしょう。
クラフトビールから広がる未来と山鹿への思い
現在はクラフトビールの醸造と販売を中心に展開している『キラリブルワリー』。森さんには次なる2つの夢があります。
「今は醸造所が小さいこともあって7種類ほどのビールを造るのがやっとですが、もっと規模を広げて、ほかの原料を使ったビールにも挑戦したいのが一つ。そして、もう一つの夢は、ここを訪れてくださった方がビールを味わえるスペースをつくることです。この場所を目的にして、山鹿を訪れる方が少しでも増えたら嬉しいなって」と森さんは朗らかな笑顔で語ります。
ちなみに、クラフトビールの中には常温で流通できるタイプもありますが、森さんの造るビールは要冷蔵。瓶内で酵母がまだ「眠っている状態」で残されています。「キャップを開けた瞬間、酵母が目を覚ますような感覚があるんです。だから常温保存できるものとは風味が違う。本当の意味で“生”のビールを味わってもらいたいと思っています」
造り手の思いを直接感じながら醸造所で味わう一杯は、きっと格別なはず。クラフトビールを郷土の町おこしに繋げたいとの未来を思い描きながら、今日も森さんは小さな醸造所でタンクと向き合います。
山鹿の町で小規模ながらもキラリと輝きを放つ『キラリブルワリー』。好きが高じて始まった夫妻のクラフトビールづくりが、今では山鹿の魅力を伝える特産品へと成長しています。鶴屋のお歳暮ギフトとして限定販売する「山鹿エールシリーズ」は、岳間茶のほろ苦さと和栗の香ばしさがきわ立つクラフトビール。山鹿の魅力が詰まった2つの味わいを通して、贈る人と受け取る人の心を温かく繋いでくれることでしょう。