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「最初に植えた桑の苗木は2万本。今では8万本になりました」。眼前に広がる桑畑を指し、株式会社あつまるホールディングスの常務執行役員の島田裕太さんが教えてくれます。整然と植えられた桑は夏の盛りにもツヤツヤとした緑色の葉を茂らせています。
「天空桑園(そうえん)」は、福岡との県境に位置する山鹿市鹿北町小坂地区の耕作放棄地を開いて造られた桑畑です。面積は、東京ドーム6個分に相当する25ha。標高は600m。見えるのは、周囲に連なる山々の峰。キラキラと輝く有明海を挟んで、長崎県雲仙の普賢岳も見えます。まさに天空と呼ぶにふさわしい場所です。
園内では農薬を使用していません。また標高が高いため、周囲からの農薬の影響を受けずに桑葉を育てられる環境です。「蚕は繊細な生き物で、無農薬の桑葉しか食べることができないんです」と、島田さんはにっこり。桑葉の収穫は、毎年5〜10月にかけて。農薬を使っていない桑園には雑草も茂ります。しかし、園地を守る7名の社員は、真夏でも毎日除草と1日3回の桑葉の収穫を続けています。
山鹿市は、かつて養蚕業で栄えた地であることをご存じでしょうか。熊本県内には、ピーク時の昭和初期に6万8000軒もの養蚕農家があったといわれていますが、現在、山鹿には2軒のみ。また、農家の高齢化も進んでいます。蚕の繭からとれるシルクの需要は世界的に高まっているにも関わらず、国内生産は約9%とごくわずか。大半は輸入されたものなのです。
そこに、“ジャパンシルクの復活”を目指して2014年に設立されたのが、農業生産法人株式会社あつまる山鹿シルク。山鹿から世界に向けた、“新しい養蚕業”への挑戦を始めました。きっかけは、熊本市に本社を構える株式会社あつまるホールディングス代表取締役社長の島田俊郎さんが、ある講演会で“新しい養蚕業”の存在を知ったこと。以前から地域に還元できる新規事業を探していた島田社長に、「これだ!」と響いたのだそう。
島田社長は、早速蚕を育てるために必要な桑の栽培用地の確保に乗り出します。用地を探している時、中嶋憲正山鹿市長にシルク事業への思いを語ったところ、「ぜひ山鹿で」と話が進んだそうです。
実は、熊本県の養蚕業の始まりは山鹿市からでした。九州における近代養蚕の開祖と言われている長野濬平(しゅんぺい)は、江戸時代末期に山鹿に生まれた人物です。「養蚕富国論」を唱えて山鹿で自ら養蚕を営み、桑の品種改良のための養蚕試験所を設立し、器械製糸の技術を導入するなど尽力。県内初の製糸場の設立も行っています。1897年には熊本産の生糸が全国最高水準の評価を受け、海外にも輸出されるようになりました。
また、江戸中期の熊本藩主細川重賢(しげかた)公による藩政改革では、養蚕業が奨励されました。当時の中心的な存在だった人物が、山鹿市に住んでいた島己兮(しまいけい)。彼の功績をたたえて建てられた「蚕神社」は、今も山鹿市内に残っています。
古くから養蚕との関わりの深い地に桑畑用地を獲得したものの、そこは耕作放棄地で背丈ほどの草木が茂り、道もない状態だったと島田さん。桑の栽培は、園地を造成し、石だらけの荒れ地を耕すことからのスタートとなりました。開墾した園地にはあつまるホールディングスの社員たちが総出で、2万本の桑の苗を植えていきました。
また、山鹿市や国、県、企業、大学などがメンバーとなって設立した山鹿新シルク蚕業構想推進協議会のもと、「‐新シルク蚕業構想‐SILK on VALLEY YAMAGA」プロジェクトの推進も始まりました。山鹿市から世界に向け、新たなシルクロードを未来へつなぐ″\想です。プロジェクトの一環として、「2017新シルク蚕業サミット in やまが」や、「SILK on VALLEY YAMAGA Festival(2018年)」など、大規模なイベントを山鹿市内で開催。山鹿シルクの情報発信を行ってきました。
構想をもとに、廃校跡地を利用し、大規模養蚕を可能にする工場の建設も始まりました。2016年の熊本地震による中断を経て、2017年、世界でも類を見ない大規模な周年養蚕工場が竣工。工場と桑園で働く社員の70%は山鹿市の出身者を雇用しているのも同社がこだわった点の一つです。シルクビジネスを通して地元の安定的な雇用の拡大の一翼を担うことで、地域貢献、地域活性化を目指しています。
従来の養蚕業は、蚕の主食である桑の葉が収穫できる期間に限られていました。養蚕期間中は1日3回の給餌が必要な重労働で、蚕はウイルスによる伝染病のまん延も多かったと言います。1900年ごろ、世界一の生糸輸出国であった日本における養蚕業の衰退は、養蚕の難しさが一因だと考えられています。
かつての養蚕業から、“新しい養蚕業”を行うため、安定した生産を目指して建てられた工場内は、クラス10000のクリーンレベルを実現。「天空桑園」で育った桑葉を加工し、乾燥保管する技術を開発しました。また、粉末状で保管している桑葉を主原料としてシート状に成形する飼料調製設備も完備。これらの設備と技術の導入で、年間を通して蚕への給餌を可能にしました。また、人工飼料を用いることで、蚕が繭を作るまでの30日間に給餌を3回にするという超省力化も実現したのです。
加えて、卵から孵化した蚕は、温湿度管理されたクリーンルームで大切に育てられています。蚕の飼育のために最適なクリーンルーム環境が整えられたこと、人工飼料の開発により、工場では年間を通して24回以上の収繭(しゅうけん)を可能にしました。すでに2017年から繭の生産は本格稼働し、その品質にも注目が集まるようになっています。
島田さんは、「この工場で育った蚕が紡ぐ繭からとれる『やまがシルク』は、他のシルク以上に多くの保湿因子となるたんぱく質が含まれており、高い保湿効果を発揮することが分かってきました」と胸を張ります。
今、同社が目指すのは、やまがシルクの高い品質を生かす用途の拡大です。シルクは今後の技術向上により、今以上に幅広い用途に用いられる可能性を秘めているといわれています。衣服、寝具や食品添加物、生活用品のほか、医薬品の素材としても注目を集めているのです。
そのため、同社では繭の出荷にとどまらず、やまがシルクを用いた自社製品の開発にも積極的に取り組んでいます。その第1弾として2019年9月、シルクで人の肌を癒し、暮らしを潤す意を込めた「COKON LAB」ブランドのボディケアラインが誕生。2種類のアロマフレグランスがある「HAND & BODY LOTION」と「HAND & BODY WASH」「FACE & BODY SOAP」です。
「商品開発や供給は山鹿市内にあるメーカーが手掛けた“All Made in Yamaga”です。化粧品の生産背景が、素材となる蚕の餌まではっきりとトレーサビリティー確保ができているものは珍しいと思いますよ」と島田さん。「農薬を使わずに栽培した桑葉を食べ、クリーンルームで大切に育てられた蚕が紡いだシルク。だからこそ、配合したのは天然油脂由来や天然植物オイルなど。90%以上が天然由来の材料となっています。誰でも安心して使える商品です」と続けます。
“新しい養蚕業”のリーディングカンパニーとして、山鹿から世界に向けて、シルクの新しい可能性を切り開いていく同社。島田さんは、今後も、繭の生産拡大、品質向上に力を入れていきたいと意欲的です。
自然豊かな山鹿市の風景に溶け込み、緑に映えるいぶし銀のカラーリング。繭をイメージした柔らかなフォルムの外観のNSP工場。工場内はクラス10000のクリーンレベルを保持。徹底した温度・湿度管理が行われ、高品質で安定した繭の生産を実現しています。
住所/熊本県山鹿市鹿北町芋生4041-1
TEL/0968-41-8680
https://atsumaru-silk.jp
http://silk-on-valley-yamaga.jp
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「BLANC PLUME」は、天然精油による軽やかで甘さのある果樹の香り。朝日とともに始まる1日に、フレッシュな香りで心に安らぎをもたらします。「RÊVE BLANC」は、天然精油による落ち着きのある光と森の香り。薄暮に染まったたそがれ時に、疲れた体と心に癒やしのひと時をもたらします。「FACE & BODY SOAP」は、高起泡性の植物油脂由来の石けん素地にシルク粉末を配合。クリーミーできめ細やかな泡立ちで、汚れや余分な皮脂を洗い落とします。しっとりとした洗い上がりが特徴です。
■FACE & BODY SOAP/2,160円(税込)
HAND & BODY WASH/280 ml 2,160円(税込)、480 ml 3,240円(税込)
HAND & BODY LOTION/280ml 2,700円(税込)、480ml 3,780円(税込)
※左(ピンク)/