Vol.12 焼酎工房 蔵元屋

「人吉5年エクストラブレンド」をプロデュースした蔵元屋の田中裕二社長(左)と、製造元である常楽酒造の米来健社長(右)

豊かな香り、たゆたう黄金色。
ウイスキーのような
樫樽仕込みの球磨焼酎

世界的に認められているブランド球磨焼酎

淡くたゆたう黄金色の液体に顔を近づけると、鼻をくすぐる芳醇な香り。「ウイスキーのようでしょう?」と微笑むのは、焼酎工房 蔵元屋代表取締役社長の田中裕二さん。人吉市の中心部で、球磨焼酎を中心に販売する酒屋を営んでいます。

球磨焼酎(くましょうちゅう)の味を知り尽くした田中さんがプロデュースしたのが、人吉シリーズ=B「樫樽に寝かせて熟成させた米焼酎のいいとこ取り≠して造り上げました」と教えてくれます。中でも人吉5年エクストラブレンド≠ヘ、熊本県物産振興協会新商品食品部門の2019年度金賞を受賞した逸品です。「パンチのある香りとコク。ウイスキーのような米焼酎ですよ」と朗らかな口調です。

焼酎の原材料は、主に米、麦、芋。球磨焼酎は米を原材料とする米焼酎であり、最大の特長は、世界貿易機関(WTO)によって、地理的表示の産地指定を受けている点。スコッチウイスキーやボルドーワインなどと肩を並べ、地名を冠することを世界的に認められている数少ないブランドであり、米焼酎のトップブランドといえるのです。

現在、球磨焼酎と呼ぶことができるのは、国産米のみを原材料とし、人吉球磨の地下水で仕込んだもろみを同地で蒸留、瓶詰めした焼酎のみ。日本三大急流の一つである球磨川流域を中心に点在する28の蔵元が、定義に沿って造り続けています。

その起源は16世紀前半。熊本県球磨地方や鹿児島県で造られ始めたといわれています。500年近い歴史を持ちますが、米が貴重品だった江戸時代には大麦や雑穀などで焼酎が作られ、庶民の間で親しまれていました。人吉球磨地方の各集落に1つの蔵元があったともいわれているほどで、一帯では、独特な形をした酒器や宴席での遊び方など、焼酎にまつわる独自の文化も発展してきました。

球磨焼酎には、球磨川水系の地下水が使われます

球磨焼酎には、国産米が使われます

老舗蔵元の『常楽酒造』。球磨郡錦町に本社と工場を構えています

ウイスキーのような球磨焼酎を造る≠ニいう発想

田中さんが蔵元屋を立ち上げ、球磨焼酎の販売を始めたのは15年ほど前。しかし、人吉球磨を代表する特産品でありながら、なかなか販売が伸びない状況が続いたと話します。「球磨焼酎の品質はとても高いのですが、焼酎の売上全体に占めるシェアはごくわずか。ものすごくおいしいのに、なぜ認められないのかという思いが強くなっていきました」と、田中さん。また、年々蔵元の数が減少していることへの危惧もあると話します。

「世界に通用するブランドである球磨焼酎を守りたいと、鹿児島や宮崎、大分など、九州各地の焼酎の産地を訪ねました。その中で気付いたのが、球磨焼酎は長期貯蔵≠ニしかうたっていないということ。まずは、何年物かをはっきりさせようと思いました。そして、新しくライスウイスキー≠ニいう分野を開拓しようと考えたんです」とのこと。

新たな球磨焼酎造りを目指すにあたり、田中さんは以下の点に着目しました。球磨焼酎の原料が穀類であること、蒸留酒であること。そして樽に寝かせて熟成させ、独自の配合でブレンドして仕上げるという造り方ができること。これらはウイスキーの製造法と同じです。

まずは焼酎を樽貯蔵している数少ない蔵元を訪ね、協力を仰ぐことからスタート。そこで出合ったのが、球磨郡錦町に本社と工場を構える『常楽酒造株式会社』だったのです。

熟成が進んだ麹米に酒母を加え、タンクで一週間温度管理を行うと一次もろみが完成。温度が上がりすぎないよう、管に水を通して調整します

球磨焼酎の老舗蔵元が基本に忠実に造る

常楽酒造は、大正元(1912)年創業の老舗の蔵元。宮崎県との県境に近い水上村で創業し、平成6(1994)年に現在の地に移転。創業間もなく樫樽による貯蔵を始め、同社を代表する秋の露≠はじめ、多くの球磨焼酎を造り続けてきました。工場には今も800もの樫樽があり、一つ一つの樽の中では焼酎が静かに時を重ねています。

常務取締役で球磨焼酎案内人の中村圭吾さんは、「球磨焼酎の特長は、原料である「米」の味を生かした製造法にあります」と話します。減圧蒸留によるソフトでフルーティーな味わいの焼酎が主流となっている一方で、米特有の香ばしさを伴った常圧蒸留の焼酎も根強い人気があります。その中にあって、常楽酒造は伝統の製法にこだわりながら、新しい商品を造りだす蔵元と言えます。

同社の杜氏である蔵座幸一さんが、工場を案内してくれました。工場内に足を踏み入れた途端、感じるのは発酵した米の匂い。大きなタンクの中では、プクプクと泡を立て、米が発酵しています。

球磨焼酎は、主原料となる米と、麹米から造られます。麹米は、米を蒸して一昼夜置いた後に麹菌を混ぜ、37度前後に保ってさらに一昼夜熟成。酵母を加えて1週間、温度管理を続けて造ります。これに、主原料となる蒸した米を合わせて15日間熟成させ、蒸留。濾過器で雑味を取り除いて仕上げます。その後、瓶詰めして出荷されるものと、貯蔵するものに分けられるのです。蔵座さんは、「先代から教わった通り、基本に忠実に造り続けるからこそ、いい味が出てくるのだと思っています」と胸を張ります。

「先代の教えと、自ら蓄えた経験と感性、そして情熱を持って球磨焼酎造りに取り組んでいます」と蔵座さん

昔気質の頑固な蔵人たちが、多くの工程を手作業で、確かめながら仕込んでいきます

仕込みタンクは、安定した品質を保つため、温度変化の少ない地中に埋没させてあります

大きなサイズは1樽450Lほどを貯蔵できるそう。水締めしたり焼き直したりと、樫樽のメンテナンスも欠かせません

ブレンド前には、必ず味と色を確認します

樽から出されたばかりの球磨焼酎。樫樽の色が移り、淡く美しい黄金色になっています

強炭酸水で割って飲む、新しい人吉ハイボール

同社では、若手の杜氏が育っているのも特長です。そのため、蔵座さんの今の主な仕事は、貯蔵している焼酎の管理とブレンドなのだそう。色がよく出る樽、香りが強くなる樽と、貯蔵する樽の個性が焼酎に反映されるとのこと。1樽ごとに異なる香りや味わいを確かめ、どのようにブレンドするかも杜氏の腕の見せどころです。「味は、舌で記憶するもの。その記憶と同じ味になるように樽を選び、配合を調整することが求められます。試飲してみて、味が足りないと別の樽から引き出して配合を変えていくんです」と、蔵座さんが教えてくれます。

人吉シリーズ≠ヘ、同社の樽で3年以上寝かせた球磨焼酎をブレンドさせたもの。田中さんとともに何度も何度も試飲を重ねて造り上げました。「もともとの焼酎をきっちり造り、きちんとした管理を行っていなければ、ブレンドはできなくなってしまいます」と蔵座さん。

中村さんは、「熟成させた樫樽貯蔵の球磨焼酎を、何樽もブレンドさせてできた味。角が取れてまろやかでやわらかな味わいです。また、樽の香りが高く、うまみも強いのに飲みやすいんですよ。すーっと入っていく飲みやすい感覚が特長で、特に女性に評判がいいんです」と話します。

焼酎といえば、ロック、水やお湯で割って飲むのが一般的ですが、プロデュースした田中さんのおすすめは、「強炭酸水で割る」飲み方だそう。田中さんはこの飲み方を人吉ハイボール≠ニ名付け、球磨焼酎の味を全国、世界に広めたいと精力的にPR活動に取り組んでいます。また、「人吉ハイボールのおいしい作り方」をYouTubeで紹介したり、人吉ハイボール専用のグラスを作ったりと、人吉シリーズ≠フ販売促進にも力を入れています。

周囲を深い山々に囲まれた球磨盆地の伏流水と国産米を材料に造られる、球磨焼酎に対する田中さんの強い思いから生まれた新しいライスウイスキー人吉シリーズ=B田中さんがウイスキーでもなく焼酎でもない≠ニ言う豊かな味わいが魅力です。日々の食卓を彩る食中酒としておすすめします。

おすすめは強炭酸水で割った「人吉ハイボール」。おいしい作り方をこちらで紹介しています「人吉ハイボールのおいしい作り方」(https://www.youtube.com/watch?v=t2JkSyEQ36k

文=谷端加代子/写真=野中元

Information

画像:焼酎工房 蔵元屋

焼酎工房 蔵元屋

国宝阿蘇青井神社近くの「人吉温泉物産館」にある『蔵元屋』。館内には、人吉シリーズ≠はじめ、人吉のお土産として喜ばれる球磨焼酎が勢ぞろいしています。

住所/熊本県人吉市上青井町120-4(人吉温泉物産館内)
TEL/0966-24-0122
営業時間/10:00〜18:00
http://www.kuramotoya.jp/

画像:「人吉5年エクストラブレンド」

「人吉5年エクストラブレンド」

老舗の蔵元が樫樽で貯蔵している球磨焼酎の古酒をブレンドした人吉シリーズ=Bプロデュースした田中さんは、あえて人吉≠フ地名を付けることで、産地の底上げにつながればと考えたそう。人吉ハイボールとして飲む飲み方は、現在、首都圏を中心に人気が高まっています。中でも人吉5年エクストラブレンドは、パンチのある香りとコクを楽しめる逸品。まろやかでやわらかな深い味わいで飲みやすいウイスキーのような米焼酎です。

■原材料:米、米麹 ■アルコール度数:28%
■720ml 1,980円(税込)

商品の購入は100%熊本百貨店で

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