Vol.5
人吉温泉 あゆの里
災害を乗り越え、再び球磨川とともに。
創業八十余年の老舗宿から届く、至福の滋味
日本三急流のひとつ・球磨川を望む、人吉市の老舗宿『人吉温泉 あゆの里』。館内へ足を踏み入れると、一面ガラス張りとなったロビーラウンジの窓越しには、ゆるやかに流れる球磨川。そして対岸には、相良700年の歴史を今に伝える人吉城址。長い時間を重ねた土地ならではの、穏やかで奥深い景色が広がっています。
初代・有村春吉さんと妻のさくらさんがこの地に惚れ込み、小さな温泉宿を始めたのは80余年前のこと。以来、『あゆの里』は、球磨人吉の自然、食、文化とともに歩みながら、多くの旅人を迎えてきました。
しかしその歩みは、決して平坦ではありませんでした。熊本地震、新型コロナウイルス禍、そして令和2年7月豪雨——。幾度もの試練に直面しながらも、宿は立ち止まることなく、「人吉らしさとは何か」を問い続けてきたのです。
今回、鶴屋お中元ギフトとしてご紹介する「あゆの里ギフトセット」に詰まっているのは、宿で長年愛され続けてきた味わいの数々。そこには土地の恵みだけでなく、人吉の未来をつなぎたいとの願いが込められています。
相良七百年の地で育まれた、癒やしの宿
「日本でいちばん豊かな隠れ里」とも称される、熊本県南の球磨人吉。四方を山々に囲まれ、清らかな水に恵まれたこの地には、古くから独自の文化と食が息づいてきました。
そもそも『あゆの里』の原点は、初代が掘り当てた自家源泉にあります。やわらかな肌触りの湯、球磨川の絶景を望む露天風呂、地元食材を生かした料理、そして球磨焼酎。自然と一体になれる時間を求め、多くの人々がこの宿を訪れてきました。
現在この宿を率いるのは、4代目女将であり代表取締役社長の有村友美さん。朗らかな笑顔と柔らかな物腰が印象的ですが、その歩みには数々の挑戦がありました。
アメリカへの留学経験を持つ有村社長は、海外で母国語を使って接することができるホテルスタッフの存在に大きな価値を感じたといいます。その経験をもとに、15年以上前から外国人スタッフの採用を推進。現在では台湾、中国、ネパール、インドネシア、ベトナム、マレーシアのスタッフが活躍しています。
「外国人スタッフは人手不足を補うためではなく、即戦力として迎えています」
そう語る有村社長の視線は、常に“世界の中の人吉”へ向けられています。
熊本地震、コロナ禍、豪雨災害。それでも守り抜いたもの
2016年の熊本地震では、建物への被害以上に風評被害が宿を襲いました。旅行会社や宿泊客からのキャンセルが相次ぎ、74室ある客室の予約がわずか2日でゼロに。そんな中でも「もっと被害の大きい地域があるから」と、被災者へ温泉を無料開放したといいます。
さらに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルス禍でした。2020年春、創業以来初となる約2カ月間の休館を決断。ようやく営業再開へこぎ着けたわずか2週間後、今度は令和2年7月豪雨が人吉を襲いました。
濁流がロビーのガラスを突き破り、地下と1階は水没。館内には2.35メートルの高さまで水が流れ込みました。それでも当時宿泊していた約80名の宿泊客とスタッフ全員が無事だった背景には、冷静な判断と長年受け継がれてきた知恵がありました。
水害後にリニューアルしたロビーラウンジの柱には、浸水した高さを示すマークが。
当時、会長だった有村社長の義父は、過去の水害経験から球磨川の危険性を熟知。市房ダムの緊急放流から人吉への到達時間を即座に判断し、早い段階で「外へ避難するより上階への垂直避難の方が安全」と決断し、人的被害を防ぐことにつながりました。
停電と断水の中、スタッフたちはガスだけを頼りに料理をつくり、暗い非常階段を何度も往復しながら宿泊客へと食事を届け続けました。「お客様が不安にならないように」との一心で尽くしたおもてなし精神。客室には後日、多くの感謝の手紙が残されていたといいます。
地下には水害当時の写真を展示するギャラリーが設置されています。
“Discover HITOYOSHI”―――。再生のためのリブランディング
水害後に、有村社長を含む経営陣がまず決めたこと。それは「スタッフを解雇しない」ことでした。先行きが見えない状況でも約6割のスタッフが宿に残り続けたことが、大きな支えになったと振り返ります。
その一方で、有村社長は自問していました。
「お客様はなぜ、あゆの里を選んでくださるのだろう」
温泉も料理も良い宿は全国に数多くある中、“あゆの里にしかない価値”とは——。
そこでブランドマーケティングの専門家を招いてスタッフ全員でワークショップを重ね、宿の歴史や価値観を言葉として整理していったのです。こうして生まれたキーワードが「Discover HITOYOSHI(ディスカバー人吉)」でした。
“世界中に人吉ファンをつくる”というビジョンのもと、スタッフ一人ひとりが「人吉コンシェルジュ」として、この土地の魅力を伝えていく——。それが、新生『あゆの里』の核となる考え方でした。
新しくなった客室(左)
1階には球磨焼酎を試飲できるラウンジを新設
リブランディングに伴い、宿名の冠を「清流山水花」から「人吉温泉」へと変更。さらに新しいロゴやブランドブック、ホームページも刷新しました。なかでも、鮎が重なり合うデザインにお客様との出会いや「安らぎ」の意味を込めたロゴは、「日本タイポグラフィ年鑑2026」でグランプリを受賞。宿の思いをていねいに言語化し、可視化した取り組みが高く評価されたのです。
人吉の恵みを、一箱に込めて。「あゆの里ギフトセット」
今回のお中元ギフトは「女将の力味噌」、「和食だし」、「オリジナル球磨焼酎」を詰め合わせた特別なセットです。
まず印象的なのが、宿泊したゲストに20年以上愛され続ける「女将の力味噌」。
有村社長の義母である大女将が「今日一日を元気に過ごしてほしい」との思いから考案したもので、旅館の朝食でも人気の一品です。熟成みそに煮干しや鶏肉のうま味を重ね、濃厚でありながら優しい味わい。野菜スティックに塗るだけで箸が進み、豆腐や炒め物、クラッカーにもよく合います。夏の疲れた体に、じんわりと力を与えてくれそう。
続いて「あゆの里 和食だし」は、料理人たちの技術を家庭で楽しめる一品。枯れ節、焼きアゴ、昆布、煮干しなど国内素材のみを使用し、化学調味料は無添加。ティーバッグ式で手軽に使えながら、奥行きのあるうま味が広がります。旅館で人気の「黒毛和牛の出汁しゃぶ」にも使用され、そうめんやうどんのつゆにも格別です。
さらに地元『深野酒造』とのコラボレーションで生まれたのが球磨焼酎のオリジナルラベル。麹米から手づくりし、かめ仕込み・常圧蒸留・3年以上の長期貯蔵によって仕上げられた一本です。かめ熟成ならではの丸みを帯びた口当たりと、やわらかな米の香り。この焼酎に「和食だし」を加えた“出汁割り”もオススメとのことで、鍋料理に数滴垂らせば、豊かな香りと深い余韻のハーモニーが広がります。
今回のギフトセットでは、リブランディングに合わせてパッケージも一新。新ロゴを生かしたシンプルで洗練されたデザインは、ハイセンスな贈答品として品格が漂います。
人吉の未来を、次の世代へ
現在、有村社長は宿の経営だけでなく、地域全体の観光振興やまちづくりにも力を注いでいます。インバウンド誘客、地域のアクティビティコンテンツの開発——。旅館の枠を越えたそれらの活動は、初代から代々切り拓いてきた道を新たな時代へつなぐ布石といえます。
鮎が再び故郷の川へ帰るように、原点を見つめながら未来へ歩み続ける『あゆの里』。「あゆの里ギフトセット」にも、人吉の風土に育まれた味わいを未来へとつなぐ願いが込められています。熊本の豊かさを改めて感じる贈りものとして。この夏、大切な方の食卓へお届けしませんか。