Vol.5
ricca
山鹿から全国へ。スイーツを通じて3兄弟家族が紡ぐ、地域の未来
平成30年のオープン以来、県内外から年間約3万人が訪れる山鹿市の人気フランス菓子専門店として成長してきた『ricca(リッカ)』。2025年鶴屋お歳暮ギフトのために用意してもらったのは、同店の看板スイーツである山鹿和栗を使った「モンブラン・グラッセ」と、栗をはじめとする山鹿の素材を生かした「山鹿焼き菓子セット」です。お菓子を通して地域の自然や人の営みまでも伝える3兄弟が描く未来とは? 現地を訪ねて話をうかがいました。
兄弟の絆がはぐくむ「里山スイーツ」
おとぎ話の世界を思わせる洋館の扉から出迎えてくださったのは、シェフパティシエとして『ricca』を取り仕切る、市原勇生さんです。
『ricca』は、市原家の3兄弟とその家族が力を合わせて営むお菓子のアトリエ。長男・邦彦さん夫妻がアイスクリームの製造を、次男・伸生さん夫妻が農業を、そして三男・勇生さん夫妻がスイーツの製造・販売担当しています。
地域の後継者不足や高齢化により農作物の担い手が減少するなか、農薬や化学肥料を使わない合鴨水稲米や栗の栽培から、スイーツの開発・販売までを一貫して行う6次産業化を実現。新しい里山再生モデルとして全国から注目を集めています。
取材に応じてくださった三男・勇生さんは、東京の名店『イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ』や『アピシウス』でパティシエとして研鑚を積んだのち帰郷。地元の素材に寄り添う洗練された味わいを追求し、「特別な日だけでなく、日常にも寄り添うお菓子を届けたい」と語ります。
「モンブラン・グラッセ」に込めた、ふるさとへの誇り
今回、鶴屋お歳暮ギフトとしてご用意いただいた「モングラン・グラッセ」と「山鹿焼き菓子セット」に欠かせないのが、山鹿の「和栗」です。これらの商品開発には、勇生さんのある思いがありました。
「東京で働いていた頃、山鹿の栗が県外では高く評価されながら、地元ではほとんど知られていないことを知りました。山鹿の栗は日本2位の生産量であるにも関わらず、地元ではほとんど消費されることなく県外に出てしまっている。味も質もトップレベルなのに熊本産としては認知されず、他県で栗スイーツの原料として使われていました。せっかくなら山鹿の栗を熊本ブランドとして認知してもらいし、地元の方にも“山鹿の栗って、こんなにおいしいんだ”と感じてもらいたかった」。そんな思いから、勇生さんは「モンブラン・グラッセ」を店の顔に据えました。
次兄の伸生さんや農家仲間が山鹿市菊鹿町で栽培した和栗を0℃で4週間かけてじっくりと熟成させ、風味と糖度が増した栗をペーストに。これを、アーモンド入りメレンゲの土台とホイップした九州産生クリームの上にたっぷりと絞り、ぜいたくなモンブランへと仕上げました。冷凍で配送されますので、冷たいままアイスケーキとして。また半解凍でセミフレッドのように味わうのもオススメです。栗の香りと上品な甘みが際立つ、とっておきの味わいをお楽しみください。
お菓子で旅する気分を味わえる「山鹿焼き菓子セット」
そしてもうひとつのギフト「山鹿焼き菓子セット」は、『ricca』の人気焼き菓子を詰め合わせた鶴屋限定のぜいたくなアソート。箱を開けた瞬間、甘い香りとともに山鹿の自然や人のぬくもりが感じられ、お菓子を通して山鹿を旅するような気分になれるギフトです。
中でも定番の「山鹿栗のコンフィチュール」は、オープン当初から愛され続ける一品。自家製の栗ペーストにジャージー牛乳、九州産生クリームを加え、洋酒とバニラビーンズで香りづけ。粒感を残した栗の食感とともに、豊かな風味が口いっぱいに広がります。バターを塗ったトーストにのせれば朝のご褒美に、ウイスキーなど洋酒と合わせれば大人のデザートに。シーンを問わず楽しめる、モンブランのようにリッチな味わいが魅力です。
「山鹿栗のパウンドケーキ」は、山鹿産和栗の甘露煮とコンフィチュールを生地に練り込み、しっとりと焼き上げた人気商品。生地から広がるバターの香りとホクホクの栗の甘さ、ほのかに香るブランデーが調和し、紅茶やコーヒーとの相性も抜群です。一切れの中に栗の豊かな表情が詰まっていて、食べ進めるほどに素材の力を感じさせます。
また、次兄が栽培する合鴨水稲米の米粉を使った「マドレーヌ」と「フィナンシェ」も見逃せません。米粉を加えることで外はさっくり、中はふんわり。「マドレーヌ」はハチミツのコクと発酵バターの風味、爽やかなレモンピール、そしてシナモンのほのかな香りが絶妙なハーモニーに。もう一方の「フィナンシェ」は、焦がしバターの香ばしい余韻が上品に広がります。どちらも素材の個性をていねいに引き出した、シンプルながら深みのある味わいです。
どのお菓子にも共通しているのは、山鹿の自然と人の手仕事を大切にする姿勢。おいしさの奥に流れているのは、風土と家族の物語です。ひと口ごとに、山鹿の里山の風景や作り手の笑顔が思い浮かぶ。贈ってうれしい、もらってうれしい詰め合わせです。
父の夢を受け継ぎ、スイーツで未来を耕す
そもそも『ricca』の物語は、3兄弟の父が始めた「ご当地アイスづくり」から始まりました。地域の自然を守りながら、農業を次世代につなぐ——そんな里山再生への志を、いま兄弟たちはそれぞれの形で受け継いでいます。
以前取材した際、長男の邦彦さんが「敷地を広げてレストランやパン屋、衣食住すべてがここで完結する場所にしたい」という夢を語ってくださいました。あれから一年半が経ち、三男の勇生さんに改めて同じ質問をしてみると。「現在はカフェの増築を進めていて、順調にいけば2026年の夏ごろにはお披露目できる予定です」とのこと。中庭の一部までスペースを広げてカーブ状のオープンキッチンを設け、デザートづくりを目の前で楽しめるライブ感ある空間になるそうです。
「オープンから8年を迎え、時代とともにこの店も変化の時期だと感じています。リニューアル後は、現在ボトル販売しているワインをグラスでも提供したいですし、いずれは自家製ワインを出せるよう、次兄の畑でワイン用ブドウの栽培を始めています」。
いずれは敷地内にベーカリーやアパレルショップも併設し、「衣・食・住」をすべてこの場所から発信する“里山の複合拠点”を目指しているとか。3兄弟が思いを一つにする夢は、その伴侶や子どもたちにも共有され、家族全員が同じ方向を見つめています。
「兄弟あわせて子どもが10人いるので、次の世代にバトンをつなぐことが何より大事です。そのためにも、まずは私たち自身が楽しんで仕事に向き合う姿を見せたいですね」。
家族の絆を軸に、地域に根ざしながら未来へと進化を続ける『ricca』。その挑戦は、スイーツを通じて人と地域、世代と世代を、優しくつなぎ続けています。